最適な後継者を選抜するために必要なこと

事業承継を考える創業者や経営者にとって、いかにして後継者を選抜すればよいかは、大きな悩みとなるだろう。後継者となる息子や娘が複数人存在する場合、ますます大きな悩みとなるだろう。今回、多くのファミリービジネスにおいて、いかにして後継者を選抜しているのか、シュレポウストら(2014)の研究を参考することで、創業者や経営者の悩みや不安を解消したい。

本研究では、いかにしてファミリービジネスの後継者が、経営者としてのポジションを獲得するのかについて、先行研究のレビューと、インタビュー調査によって明らかにしている。結論を先取りすると、事業承継のプロセスとして、5段階のプロセスを理論的に明らかにした。さらに、プロセス自体が非言語化されたものであり、ハードな技能と共にソフトな技能が後継者には要求されることがインタビュー調査より明らかにした。以下、初めに、彼女らが提示した理論モデルを説明すると共に、その後、調査結果について論じる。

シュレポウストら (2014) は、先行研究を検討することで、ファミリービジネスにおける息子や娘は次の5点の選抜プロセスを経て、後継者となることが明らかとなった。

第1段階は、プレ選抜プロセス

このプレ選抜プロセスⅠでは、幼少期の息子や娘を対象に、後継者の育成を行う。この段階において、両親は後継者に次の2点の準備を行うことが可能となる。1に、後継者に対して、マネジメントにおいて重要となる要因を伝えること。第2に、後継者が早い段階から、ファミリービジネスに対する興味を持つように促すこと。

第2段階は、事業承継における評価。

このニーズ評価では、事業承継の必要性と後継者の適正について評価を行う。第1に、事業承継の必要性について評価する。例えば、創業者や経営者の健康上の問題や他の要因によって、事業承継が必要かどうかを判断する。第2に、息子や娘が後継者として相応しさについて暗黙的に評価する。例えば、後継者の特性や性格を踏まえ、自社の行っているビジネスに相応しいかどうかを判断する。

第3段階は、プレ選抜プロセス

プレ選抜プロセスⅡでは、後継者が仕事に求められる能力を満たしているかどうかに関する検討を行い、後継者としての候補を絞り込む。このプレ選抜において、家族との繋がりや家族のサポート、健康状態や年齢といったものが影響されるとされる一方で、言語化されていないものの、仕事に関する後継者としての資質も、考慮されている。

第4段階は、リクルートチャネル。

このリクルートチャネルでは、息子や娘は後継者として選抜される。この段階において、息子や娘や後継者は、将来のリーダーシップの担い手として理解することになる。

第5段階は、選抜の実行。

この選抜プロセスでは、最終的な次期後継者が選抜される。最終的な後継者は、最も後継者に求められる能力を満たしており、後継者自身もファミリービジネスにおいて、リーダーシップを取ることに強い関心があるものが選抜される。息子や娘は、これまでの選抜プロセスを経ることで、ビジネスにおいて求められる技能や会社におけるルールを獲得し業績を上げるようになる。よって、選抜のプロセスを経て、後継者として選抜された息子や娘は、十分な能力があるリーダーとして次期のファミリービジネスを担うことになる。

以上の理論的に導かれる選抜のプロセスを踏まえ、シュレポウストら (2014) はドイツにおいて、ファミリービジネスを運営している53のファミリーを対象に、106回のインタビューを実施した。調査の結果、選抜のプロセス自体が、ファミリーにおいて言語化されているような明確なものではなく、非常に暗黙的なものであることが分かった。しかしながら、暗黙的な選抜にも関わらず、ファミリー内においては後継者として満たすべき要素を、息子や娘が満たすことが出来ているかどうか判断していることが明らかとなった。

後継者はビジネススキルであるハードな技能だけではなく、ソフトな技能も必要。

特に、ファミリービジネスにおける事業承継においては、ハードな技能のみならずソフトな技能についても判断していることが明らかとなった。ここでのハードな技能とは、ビジネスの業績に繋がる業界の知識や経営に関するノウハウといった技能を指す。また、ソフトな技能とは、社会関係資本や個人の性格、動機づけやビジネスへの愛着、さらには親子の関係性といったソフトな技能を指す。シュレポウストらによると、ファミリーにおける息子や娘は、後継者として選抜されるためには、ハードな技能を持ち合わせていることはもちろんであるものの、それだけでは不十分であることが明らかとなった。すなわち、ソフトな技能を持ち合わせていることも要求されるのである。

選抜と共に大切なことは、後継者を育成するという観点。

シュレポウストらは理論的検討とインタビュー調査を踏まえ、事業承継における後継者の選抜は、5点のプロセスを経ることを明らかとした。さらに、そのプロセスを経る中で、後継者が仕事に関わるハードな技能と、後継者の人間性や人間関係といったソフトな技能の両方を評価していることを明らかにした。彼女らの研究を踏まえれば、後継者の選抜は、幼少期の頃より徐々に選抜のプロセスを踏んでいるということ、そして、選抜のプロセスを経る中で、暗黙的ではあるものの、後継者としての相応しさを判断していると理解できる。すなわち、後継者の選抜について現在悩みを抱えている経営者にとって、今回の研究は何を判断すればよいかの基準として理解することができる。具体的には、ビジネスにおける技術的な側面と言えるハードな技能と、後継者の性格的な側面と言えるソフトな技能を基準として捉えることが可能となる。さらに、将来的に後継者の選抜を目指す経営者にとっては、時間をかけて、適切な後継者として育成すること自体が、選抜のプロセスとして理解することができる。言い換えれば、後継者の選抜とは、成長した息子や娘を後継者として選ぶことのみならず、後継者として育て上げると理解することできるのである。