誰を後継者にすべきか?

事業承継は、現経営者が次世代に自らのパワーを譲り渡すことを意味する。ファミリービジネスにおいて、基本的には自らの子供たちへの承継が想定されているものの、経営者の多くは一度や二度、ファミリーに承継すべきか、それとも優秀な従業員に承継すべきかについて、検討したことはあるだろう。

バーンズ (1994)は、内部者と外部者の視点を導入することで、事業承継に関わるメンバーの関心や不安について明らかにしている。具体的には、ファミリーの内部者(ファミリーメンバー)と部外者(非ファミリーメンバー)およびビジネスの内部者(従事者)と外部者(非従事者)である。彼らは、これらの視点を提示することで、それぞれへの事業承継のメリットとデメリットを明らかにしている。

第1に、ファミリーマネジャーである。ファミリーマネジャーとは、ファミリーメンバーであり、かつ、ビジネス従事者である現世代から次世代のメンバーを指す。これらのファミリーマネジャーは、後に挙げる従業員、関係者、部外者の視点に気付かない場合、彼らは自らの関心にのみ注力してしまう。また、ファミリーマネジャーの旧世代のメンバーは、会社における権力を維持し、その権力を次世代のメンバーに譲渡しようと試みる。さらに、両者に共通する傾向として、暗黙的な選抜やファミリーメンバーとしての永続性に関心を持っている。

第2に、従業員である。従業員とは、ビジネス従事者であるものの、ファミリーにおいては外部者(非ファミリーメンバー)である旧世代から次世代までのメンバーを指す。従業員としてのメンバーは、たとえ家族の一員として接していたとしても、ファミリーマネジャーとは異なるプレッシャーや関心を持つとされている。例えば、旧世代のメンバーは、忠誠への報酬や、株式の共有、安心、さらには経営者としての椅子を求める。一方で、次世代のメンバーは、プロフェッショナリズム、成長の機会、会社に存在する意義を求める。また、両者に共有する傾向としては、ファミリーの事業承継の橋渡しについて関心を持っている。

第3に、関係者である。関係者とは、ファミリーメンバーであるものの、ビジネスにおいては外部者(非従事者)である旧世代から次世代までのメンバーを指す。関係者としての旧世代のメンバーは、収入への懸念、ファミリーのコンフリクト、配当政策、さらには自身の子供たちのビジネスにおけるポジションを懸念している。一方で、次世代のメンバーは、兄弟に幻滅することや、ビジネスに参画する際のプレッシャーの程度に懸念を持ちやすい。また、両者に共通する傾向としては、干渉や参画、さらには支援について関心を持っている。

第4に、部外者である。部外者とは、ファミリーの外部者であり、かつ、ビジネスの外部者であるメンバーを指す。例えば、部外者は競合他社のメンバーであったり、研究開発に関心のあるメンバー、債権者、政府関係者、ベンダー、さらにはコンサルタントとなる。これらの部外者はそれぞれが様々な関心を持っており、それは建設的なものから破壊的なものにまで及ぶ。

後継者それぞれのタイプを興味と不安を理解しておくことが重要。

以上を踏まえれば、第1のファミリーマネジャーへの事業承継は、ファミリーの中で事業を継続していくことに強い動機づけが存在することが明らかとなる。しかし、その一方で、ファミリーの関心に終始する場合がある。次に、第2の従業員への事業承継は、経営者になることへの動機づけが働いているため、事業承継が成功する可能がある。その一方で、株式の割り当ての段階において、何らかの問題が乗じる可能性も考えられる。さらに、第3の関係者への事業承継は、会社への参画する障壁を取り除くことでで、成功する可能性はより高まるだろう。ただし、関係者は、自身の子供への承継に動機づけられるということは、理解すべきである。最後に、部外者への事業承継は、より経営のプロフェッショナルへの承継が可能となる。もちろん、その一方で、部外者が持つ様々な意図や思惑によって、ファミリーが期待する方向とは異なる結果になる可能性も、十分にあることは考慮すべきである。

基本的に、ファミリービジネスの経営者は、自らの家族へと世代や事業を承継していくことを念頭に置いているだろう。しかしながら、必ずしも後継者は家族に限るわけではない。スリーサークルモデルが示すように、所有に専念するという方法も十分に考えられるし、より相応しい経営者が社内に存在している可能性もありえる。本研究が我々に示唆する点は、一見すると前提とされがちな、ファミリーへの事業承継の再検討にある。結果として、自らの息子や娘が後継者になったとしても、前提への内省は事業の発展を検討する上で肝要となる。例えば、ファミリーマネジャーや関係者がどのようなことに興味があり、不安があるのかを理解しておく必要があるだろう。また他でも、ファミリービジネスにおいては看過されがちな、従業員が経営者になることを目指したいという動機は、従業員のモティベーションにも寄与するだろう。そういったキャリアパスの存在が、従業員のみならず、ファミリーにとってもメリットとなりえる。経営環境の激化や、子供たちも多様なキャリアが考えられる今日において、いかにして優れた経営者に、事業を承継していくかが、ファミリービジネスを継続させる上で肝要となることは間違いない。