本レポートでは、サントリーのファミリービジネスについての研究をした橋本 (2014)をもとに、サントリーの株主構成、役員構成から、同社がファミリービジネスの1つであることを示し、そのうえで、経営指標からの分析、およびファミリービジネスが故に取られている経営戦略の分析を行い、特徴を明らかにする。

ファミリービジネスというと、日本では、同族支配の意味や、不祥事や不正の原因という必ずしも良くないイメージで語られることがある。例えば2015年に大きな話題になった大塚家具の経営方針を巡る親子の対立があったことを覚えている方も多いだろう。一方では、ファミリービジネスでは、老舗企業のような長寿性や高い収益性の要因として注目が集まってもいる。実態としても、日本のファミリービジネスは、国税庁の税務統計約260万社の法人企業のうち、95%がファミリービジネスであり、上場企業でいうと、トヨタ、キヤノン、武田薬品などがファミリービジネスの代表として挙げられる。このように、ファミリービジネスは注目するに値する。そこで、ファミリービジネスの4つの特徴をみていく。

ファミリービジネスの4つの特徴

まず、日本のファミリービジネスの業績は、高収益であると考えられてきた。実際、ファミリービジネスのROEは、全体平均よりも高いことが研究で明らかにされている(木村, 2003)。次に、ファミリービジネスの長寿性に注目する。ファミリービジネスには長寿企業が多いとされている。加護野 (2008)は、日本的な家族の制度と文化が長寿の要因であると指摘している。一方で、アメリカではファミリービジネスは寿命が短いという研究もある。ファミリービジネスの特徴の3つめに、事業革新性がある。加護野 (2008)は、同族メンバーが経営の舵取りを行うことによって企業経営の改革が行われると述べている。またその例として、武田薬品に武田国男氏が就任した後や、資生堂では福原氏が就任した後で革新性が生まれたことを記述している。ファミリービジネスにおける革新性は、起業家精神やその実現が、新規事業機会の認識や発見、新規事業発足の意思決定、必要な資源の調達に影響を及ぼしているという研究がある。一方で、ファミリービジネスの特徴である社齢の高さが成長に対する必要性を減少させる要因であることを指摘している研究もある。したがって、ファミリービジネス特有のジレンマがありそうである。ファミリービジネスの特徴の4つめは、地域貢献や社会性の高さがある。欧米では、ファミリービジネスに注目した地域経済の活性化が進められており、その活動に多くの大学が積極的に参画している (後藤, 2004)。また、日本においては、近江商人の「三方良し」の経営理念に代表されるようなファミリービジネスの考え方が浸透している。以上のような特徴をもつ理由として、長期的なコミットメントを持ち、長期的な視野で経営することができるためであると考えられている。長期的な志向は、企業統治や経営戦略に影響を及ぼす。

ファミリービジネスである「サントリーグループ」

ここからは、サントリーのファミリービジネスについて述べていく。サントリーは、1899年に鳥井信治郎が鳥井商店を創業し、その後サントリーの前身となる株式会社壽屋を設立したのが始まりである。1990年には鳥井信一郎が社長に就任し、2001年には、佐治信忠が就任した。2014年から新浪剛史が社長に就任している。サントリーの主な業績は、赤玉ポートワインやウイスキーといった洋酒を日本人に広めたこと、トリスバーを筆頭とした戦後のウイスキー飲用を普及させたこと、生ビールと缶ビールを定着させたこと、トロピカルカクテルなど新しいライフスタイルの創造提案をしたことである。サントリーの事業は、飲料・食品セグメント、ビール・スピリッツセグメント、その他セグメントに分けられ、その他セグメントでは、海外事業や、ファストフードやレストランなどの事業がある。このような多様なアイデアや商品開発力業態開発力を生み出す源泉として語られるのが、サントリーの社風としてのパイオニア精神、フロンティア精神である。最も有名な規範として「やってみなはれ」がある。これは、二代目社長の佐治信忠がビール産業に参入する際に、初代鳥井信治郎が語ったとされている。

次に、サントリーグループがファミリービジネスであることを持株比率に注目して提示する。サントリーホールディングス株式会社の持ち株比率は、創業者一族(鳥井家・佐治家)が個人で保有する比率は低い。しかし、筆頭株主の寿不動産株式会社の持株比率は、創業者一族により大半の株式を保有している。役員構成は、サントリーホールディングス株式会社では代表取締役会長が佐治信忠、代表取締役副会長が鳥井信吾、代表取締役社長が新浪剛史、代表取締役副会長が鳥井信宏、取締役副会長が小嶋幸次となっている(2018年5月28日現在)。代表取締役社長は新浪剛史であるが、依然として創業者一族が役員に在籍していることがわかる。また、寿不動産にも創業者一族が多くいることがわかる。表1は、サントリーホールディングス株式会社の大株主の状況、表2は、寿不動産株式会社の大株主の状況をまとめている。

ここからは、ファミリービジネスとしてのサントリーの収益性と事業戦略に注目していく。まず、サントリーの成長性についてみると、海外進出を積極的に行なってきたため、他者よりも営業利益伸び率が高い結果となっている。このような海外におけるM&Aや未開拓分野への参入は、利益増加型の利益調整を行うインセンティブが強く働き、グローバル展開につながる。次に、サントリーの事業戦略は、海外における大型M&Aの推進、ビール事業への参入、花事業への参入、文化・芸術・スポーツ活動の支援が大きな特徴として挙げられる。大型M&Aでは、アイルランドではボウモア蒸留の株式を100%、ドイツではワインの製造など多岐にわたる。第2にサントリーは1963年にビール事業へ進出した。第3に1980年代末にバイオテクノロジーの技術を生かした花事業に進出した。第4に文化・芸術・スポーツ活動の推進がある。サントリーには利益三分主義という理念があり、事業で得た利益を会社、顧客、社会の三者に還元することで、創業以来、社会貢献活動を続けてきた。例えば、サントリー美術館やサントリーホールなどがある。

本レポートでは、まずサントリーグループの株主などの状況からファミリービジネスであることを示した。さらに、ファミリービジネスの要因として、高収益性、長寿性、事業革新、地域貢献や社会性を挙げた。サントリーはそのいずれにも該当する。日本を代表するファミリービジネスであるサントリーの経営行動に注目することは、今後もファミリービジネスの実務を見直す際の見本例になるだろう。