本レポートでは、ストライクら(2018)の研究に基づいて、ファミリービジネスにおけるアドバイスの研究について紹介する。これまでの研究ではアドバイスをしたりアドバイスを受けたりする組織内の構造はブラックボックスであった。本研究では、心理学におけるアドバイスの研究の潮流を分類・統合するために、インプット・プロセス・アウトプットのフレームワークを示し、ファミリービジネスにおけるアドバイスについて心理学の知見から新しい概念と変数を紹介していく。

ファミリービジネスの意思決定者は、一人で決定をするものではないとこれまでの研究では示されており、組織内外の人にアドバイスを求めることがしばしばある。本研究では、ファミリービジネスにおけるアドバイスをより理解するために他の学問分野である心理学の知見を取り入れて理解を目指していく。

ファミリービジネスコンサルタントと心理カウンセラーが拠り所とする理論の違い

アドバイスの研究を分析するために、ファミリービジネスのアドバイスと心理学の研究(2011年から2017年の学術論文)を体系的にまとめた。まず、アドバイスの定義はファミリービジネス分野の論文では、経験ベースの専門家のアドバイザーやセラピストやメンターや信頼されているアドバイザーやCFOなどに分類された。一方で、心理学の文献では、アドバイスの分類、メッセージの特徴、コストや役割が主に研究されている。続いて、使用されている理論は、ファミリービジネスの研究では、エージェンシー理論やスチュワードシップ理論、コーポレート・ガバナンス、意思決定、知識共有、リソースベースドビューなどが用いられている。一方で、心理学の研究では、アドバイス反応理論、感情の評価理論、構造レベル理論や判断アドバイザーシステムなどが研究に用いられている。次に、ファミリービジネスと心理学におけるアドバイスの先行研究では、インプット・プロセス・アウトプットのカテゴリーにそれぞれ分類され、さらに分析レベルや方法も様々あることが示されている。具体的にファミリービジネスの変数の分類では、インプットとして家族や意思決定やアドバイザーや会社や関係的性質やアドバイスの性質が示されている。プロセスはアドバイスをすることやアドバイスを受けることやアドバイスを求めることや意思決定をすることが示されている。アウトプットでは、会社の非経済・経済的、家族の非経済的・経済的部分が示されている。状況要因や相互作用の影響に注目すると、意思決定者やアドバイザーや会社やエコシステムの家族や関係性が研究されている。同様に、心理学におけるインプット、プロセス、アウトプット、状況要因や相互作用の影響をみていく。まず、インプットとしてアドバイザー、意思決定者、アドバイス、意思決定、関係性の性質の研究がされている。プロセスの研究はアドバイスを受けることやすることや意思決定やアドバイスを求めることが研究されており、アウトプットの研究は決定の選択やアドバイザーの反応や意思決定者の反応やアドバイスの支持やアドバイスのタスクが示されている。状況要因や相互作用の影響は、アドバイザー、意思決定者、アドバイス、意思決定、環境や状況の性質の研究がされている。

図1では、これまでのファミリービジネスにおけるアドバイスの研究で注目されてきた研究を図示している。

図2では、これまでの心理学におけるアドバイスの研究で注目されてきた研究を図示している。図でも明らかなように、それぞれの研究分野で注目されているレベルやステージが異なるため、これらの研究を統合することが今後の研究で求められる。

ファミリービジネスコンサルタントが心理学知見から盛り込むべき視点

図をふまえると、最後に本研究では9つの研究のギャップを次のように提案している。

①何の性質がアドバイスにあるべきか、ファミリービジネスのために有効で実行可能性を高めるためにアドバイスをどのように与えられるべきか?

ファミリービジネスの意思決定者が最も信頼する能力はどんなアドバイザーのタイプなのか?

どのように組織や家族の性質のような状況(例えば、知識や目標や愛着の度合い)や文化的側面がファミリービジネスにおけるアドバイスをする影響があるのか?

④家族のアドバイスをする傾向は何の要因が影響し、どのようにファミリービジネスの意思決定に影響するのか?

どのように人間関係的な側面はファミリービジネスの意思決定者のアドバイス行動を増減させるのか?

⑥どの家族やビジネスの内的・外的の状況要因がアドバイスに影響し、最終的に組織の意思決定行動に影響するのか?

どのようにアドバイスをすることが個人の意思決定に影響し、最終的にファミリービジネスの経済的成果に影響するのか?

どのように家族間でアドバイスをすることや意思決定が家族の成果に影響するのか?

⑨どのようにアドバイスをすることがファミリービジネスの非経済的成果に影響するのか?

以上のように、ファミリービジネスにおけるアドバイスの研究は非常に多様な研究課題が残されていることが分かる。

本レポートでは、ファミリービジネスにおけるアドバイスの理解を深めるために、心理学の知見を交えながら議論してきた。これまでのコンサルタント視点のファミリービジネスでは組織とアドバイザー自身の特徴から論じられてきたが、心理カウンセラー(心理学)で論じられてきた個人や二者関係にはあまり触れられてこなかったと思う。今後、よりファミリービジネスコンサルタントとして、有効な手立てを実行していくためには組織視点だけではなく、二者関係でも考慮していく必要があるだろう。

一方、心理カウンセラー(心理学)がファミリービジネスを支援していくには、ファミリービジネスコンサルタントのように組織といったところにまで入り込んでいくことが望ましいと考える。もしくは、コンサルタントと連携しながら、ファミリービジネスの改善を検討すべきだろう。