事業承継を成功に導くために必要な事前準備

ファミリービジネス研究では、事業承継に関するプロセスについて、様々な研究が蓄積しており、本調査レポートにおいても紹介してきた。しかしながら、すべてのファミリービジネスが調査レポートの提示するプロセスと同様の段階を経れるわけではない。なぜなら、各ファミリービジネスにおいて、事業承継への認識や周りのサポートは異なるからである。今回の調査レポートでは、事業承継に臨む上で、ファミリーとして準備すべき点を明らかにすることで、より効率的な事業承継の成功を目指す。

サンドら (2015)は、事業承継の成功やその成果に注目するのではなく、効率的な事業承継を達成するために必要となる、準備すべき要因について明らかにした研究である。これは、事業承継を成功に導くための準備段階を明らかにすることで、これまで蓄積されてきた先行研究との接合を図り、より良い事業承継を目指すためである。サンドらは、148人の事業承継を経たファミリービジネスの経営者に対してアンケート調査を実施。調査を通じ、事業承継に先立ち準備すべき4点の視点と、6点の具体的な要因について明らかにした。

まず、サンドらが提示した視点について記述する。

第1に、利害関係の強いステークホルダーから十分な満足を引き出すと共に、事業運営における将来的な協働意識を高めることである。

第2に、ファミリービジネスの共同経営者といった利害関係が強く権力を持ったステークホルダーを怒らせることや、税務署といった利害関係は弱いステークホルダーに警戒される等の、事業承継における失敗を避けることである。

第3に、過度な課税等のファイナンス上の制約を取り除くことで、事業承継後の事業運営の可能性を高めることである。

第4に、サプライヤーや顧客の意見を踏まえ、経営戦略の策定支援と業績向上の支援を行うことである。

以上の命題を踏まえ、サンドらは以下の6点の具体的な準備すべき要因である。

事業承継を成功に導く6つの準備事項

1点目は「事業承継の必要性の理解」である。これは、事業承継に関する問題について、ファミリーメンバーの間で議論することで、事業承継についての意識を高めることを指す。事業承継を成功に導くためには、承継前から家族会議等で将来的な承継について議論する必要がある。なぜなら、こういったファミリー内での議論を通じ、ファミリーにおける承継に対する意識が高まり、事業承継に対して積極的となるからである。よって、事業承継を成功に導くための準備として、「事業承継の必要性の理解」を獲得することは不可欠となる。

2点目は「創業者と後継者の意志」である。これは、創業者が事業承継への準備が整っていることを確認すると共に、後継者が事業を承継する意志があることを確認することを指す。創業者にとって、自らが立ち上げた事業を後継者に承継することは、たとえそれが家族であっても心理的な負担になる。また、後継者についても、自身が会社を担うことに対しては、大きな不安を抱えている。よって、事業承継を成功に導くための準備として、「創業者と後継者の意志」を高めることが不可欠となる。

3点目は「ステークホルダーの了解」である。これは、全ての利害関係の強いステークホルダーから事業承継を了解されることで、彼らからサポートを受けることを指す。例えば、親族といった身近なステークホルダーから、承継について反対されているような状況において、事業承継を成功に導くことは困難となる。また、共同所有者から事業承継が反対されている場合においても、成功に導くことが困難となる。よって、事業承継を成功に導くための順位として、「ステークホルダーの了解」を得ることが不可欠となる。

4点目は「十分な補償」である。これは、事業承継後、創業者や事業を承継しなかった兄弟姉妹が、十分に適切な生活を送れるよう補償することを指す。事業承継を経ることで創業者の生活水準が低下するような場合や、また、他の兄弟の生活水準が低下するような場合、事業承継の困難さは高くなる。よって、事業承継を成功に導くための準備として、「十分な補償」を準備することが不可欠となる。

5点目は「コストの影響」である。これは、事業承継に関わる費用が、創業者の事業承継の意志やその後の事業投資に対して、ネガティブな影響を与えないことを確認することを指す。事業承継に多額の費用が掛かる場合、創業者やファミリーは事業承継に対して尻込みしてしまう。よって、事業承継を成功に導くための準備として、「コストの影響」を検討することが不可欠となる。

6点目は「正式な所有のパワー」である。これは、後継者が事業承継を通じ所有権を獲得することで、正式な経営者としての機能を獲得することを指す。後継者が事業を承継したのち、実際に経営者として事業を運営するパワーを獲得することで、事業承継は成功となる。よって、事業承継を成功に導くための準備として、「正式な所有のパワー」を獲得することを促すことが不可欠となる。

以上のサンドらの研究を踏まえれば、次の示唆を導くことが可能となる。まず、事業承継を目指す上では、ファミリーメンバーをはじめとした、パワーの持つ利害関係者の承継への意識を高めると共に、彼らが承継をサポートするように準備する必要がある。さらに、直接的な利害関係は無くとも、事業承継に関わる公的機関との関係(特に税関係)や事業承継に関わるコストについても、予め検討しておく必要がある。以上を踏まえれば、事業承継とは、より長期的な視点に立つことが要求される。まさに、ファミリービジネスの創業者にとって、事業承継は事業の起こしたその瞬間から生じる課題であるといえよう。