後継者にベンチャー意識をもってもらうためには

創業者の方々にお話をお伺いすると、後継者はベンチャー意識が足らないということを耳にするが、本当に後継者にはベンチャー意識が足らないのだろうか。後継者はチャレンジしたいのに、会社として仕組みや制度が整っていないことも多いように思う。また、創業者自身がその障害になっていることも少なくない。そこで、ポサ(1988)の研究論文を紹介したい。

はじめに、ポサはこれまでの先行研究を踏まえ、社内ベンチャー活動は以下の4点のステージによって促されると考えている。第1に、戦略の探索である。戦略策定が創業者から後継者へと引き継がれていくことで、後継者による事業の牽引は、より加速することになる。第2に、組織変革である。新たな戦略を打ち立てることは、新たな組織構造を必要とする。例えば、これまで以上の成長を目指す場合、既存の生産システムや管理システムでは限界が生じる。その結果、新しい組織へと構造を変化させることが求められる。それゆえ、組織変革は社内ベンチャー活動を促すことになる。第3に、ファミリービジネスの業績管理制度の変化である。戦略に基づく組織変化によって成長した既存のビジネスや新たなビジネスは、これまでとは異なる業績管理制度を必要とする。よって、業績管理制度の変化は、ベンチャー活動の促進に繋がる。第4に、ファミリーシステムの変化である。新たな戦略のもと、組織の構造や財務の制度が変化することによって、ファミリーとしての特徴も変化することになる。例えば、主たる事業が変化することによって、ファミリーメンバーによって共有される価値も変化することになる。社内ベンチャー活動によって生まれる変化が、創業者の時代とは異なるファミリーの文化や価値を形成することで、より社内ベンチャー活動を促すことになる。

社内ベンチャーを阻害する要因

ポサは、上述の4点のステージを踏まえた上で、社内ベンチャー活動を阻害する要因を以下の6点取り上げている。

第1に、成長ビジョンの欠如である。成長のビジョンが描けないようであれば、社内ベンチャー活動が成功に繋がる可能性は低い。

第2に、顧客・従業員・業務・競争との距離である。社内ベンチャー活動に注力するあまり、顧客を無視したり、社内の従業員を蔑ろにすれば、成功の確率は低下する

第3に、金銭への神経質さと近視眼である。社内ベンチャー活動は、自社が有する資源を分割することになるが、その際に過度に金銭に神経質になったり近視眼化することで、活動を阻害してしまう

第4に、過剰な間接費用である。社内ベンチャー活動は、既存のビジネスが存在するため、潤沢な予算が存在する場合がある。しかしながら、それらの予算が必ずしも優れたアイディアを生み出すわけではない。社内ベンチャー活動における過剰な予算の投入は、逆に活動を妨げることになる。

第5に、高い社会的リスクの認知である。社会的なリスクを認知すればするほど、社内ベンチャー活動は抑制されることになる。

第6に、不適切なビジネスの経営者、所有者、社内ベンチャーとの境界である。ファミリービジネスにおいて、それぞれの関係が曖昧になるために、適切な距離感を保てない。その結果、社内ベンチャー活動への適切な対応が難しくなり、活動が妨げられることになる。

社内ベンチャーを誘発するマネジメント施策

以上の阻害要因を踏まえた上で、ポサは、社内ベンチャー活動を促すマネジメント施策を提示している。

1つ目の施策は、専門化と多様化である。先行研究では、専門化や多様化の重要性が指摘されている一方で、それぞれのもつデメリットも指摘されている。それらを踏まえ、筆者は、以下の6点の結論を導出している。第1に、必要となるまで多様化するべきではない。第2に、合併や買収、起業は十分な利益がある場合を除いて、避けるべきである。第3に、受動的な投資と能動的な起業は区別すべきである。第4に、慣れ親しんだ市場や技術は保持するべきである。第5に、高品質で優れたサービスのニッチ市場への特化を検討するべきである。第6に、起業はリスクを伴うことを理解するべきである。

2つ目は、ベンチャー志向である。ファミリーとして、後継者のベンチャー活動を促すように、後継者の活動を支援することや、ファミリーのもつ資産によって起業をサポートすることによって、社内ベンチャー活動が活性化する。

3つ目は、報酬システムの設計(加点主義への転換)である。リスクをとることや、成長へのインセンティブを設定することによって、ファミリーメンバーや従業員を既存の事業や起業へとコミットさせることができる。その結果、業績の向上や社内ベンチャー活動を促すことができる。

4つ目は、情報システムの導入である。最新の情報をキャッチアップすることができるシステムを構築するとは、市場や競合、顧客の理解に繋がる。

5つ目は、株式の所有方法である。ファミリービジネスであれば、株式を実際に所有させることで、本当の意味でのビジネスの所有者としての振る舞いが期待できる。実際に、とある調査では、従業員にある程度の株式(31%)を所有させている中小企業において、優れた成果があげられていた。

6つ目は、人的資源管理の計画と実践である。人的資源管理の施策を策定、実施することによって、ファミリーメンバーの心理的な所有意識や従業員のコミットメントを向上されることができる。

以上を踏まえると、後継者にビジネスを成長拡大させる第2のベンチャーとして振るまわせるためには、それ相応の文化を形成する必要が浮かび上がる。まず、後継者にビジネスを継がせることのみならず、ベンチャーとして振る舞うことの重要性を幼少期から示すことが必要であろう。それと共に、実際に株式を保有されることで、経営者や所有者としての自覚を持たせることも不可欠である。さらに、ビジネス自体が後継者一人で行えるわけではないため、従業員への配慮も忘れてはならない。すなわち、後継者を第2、第3の社内ベンチャーとしてビジネスを牽引させるためには、後継者への配慮のみならず全社的な配慮が不可欠なのである。