創業者の人脈は後継者が継げるのか?

創業者であれば、人と人との繋がり、人脈の重要性は身に染みて理解しているだろう。事業承継を検討する上で、まさにその人脈を継がせたいと考えている創業者も少なくない。しかしながら、創業者と他者の間にできた繋がりを、後継者に譲り渡すことは容易ではない。本調査レポートでは、これまでの研究に基づくことで、人脈の承継についてどのような議論がなされてきたのかについて検討する。

創業者は、創業と共に社会的なネットワークを構築することになるが、企業が長期的に存続できるかどうかは、支援的なネットワークを構築することができるかに依存するようになる。この社会的ネットワークについて、シュタイヤー (2001)は、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)を用いて、いかにして社会的な関係を引き継ぐことが可能になるかについて検討している。社会関係資本とは、社会における信頼関係や規範、ネットワークなどを指し、経営活動から経済活動に寄与するものである特に、ファミリービジネスの事業承継において、父親の築いた社会関係資本を、いかにして後継者へと承継していくかが肝要となる。

以上を踏まえ、シュタイヤー (2001)では、ファミリービジネスにおいていかにして社会関係資本を承継するのか、そのメカニズムを明らかにしている。調査方法として、本研究ではインタビュー調査を採用。カナダにおける第2世代の後継者を対象に、最終的に27回の調査を実施した。調査の結果、社会関係資本は①計画していない突然の承継、②急な承継、③自然な承継、④計画された承継のパターンがあることが判明した。それぞれについて、詳しく論じていきたい。

社会関係資本の4つの承継パターン

①計画していない突然の承継とは、創業者の死や病気といった出来事において、突然生じる承継である。

②急な承継とは、突然の承継ではないものの、十分な計画や時間を取ることが出来ず、様々な要因によって急かさせる形で生じる承継である。下記の図1は、計画していない突然の承継を表したものである。これまでとは全く関係のない関係性に、突然参画することによって、社会関係資本を承継していくというものである。

③自然な承継とは、突然の出来事や計画などがあるわけではなく、自然な形で生じる承継である。下記の図2は、自然な承継を表したものである。自然な承継においては、段階的なメンタリングによって、社会関係資本を承継していくというものである。

④計画された承継とは、創業者が社会関係資本の重要性を理解しており、長期的な計画に基づく承継である。下記の図3および図4は、計画に基づく承継を表したものである。例えば、図3では技術や会計、金融、マーケティングといった職能を経験することによって、社会関係資本を承継していくというものである。また、図4では、様々な事業を経験することで社会関係資本を承継していくというものである。

人脈承継のカギは、その重要性を創業者が認識し、計画的に承継させるかどうかである。

以上の調査を通じ、本研究では、以下の5点の結論を提示している。

第1に、ファミリービジネスにおいて、社会関係資本は、暗黙知の共有によって理解されるというものである。これは、社会関係資本が企業にとって重要な資産になる一方で、非常に理解しにくいものであるため、日々の業務を通じて理解していく必要があるからである。

第2に、ファミリービジネスにおいて、社会関係資本は、 ①計画していない突然の承継、②急な承継、③自然な承継、④計画された承継によって、引き継がれる。

第3に、ファミリービジネスにおいて、社会関係資本は、①社会的な関係に関わる活動、②既存の関係の再確認や関係の強化、③新たな関係性の確立を通じて、承継されていく。これは、社会関係資本が他社や他者との活動を通じて形成していくものであるため、創業者が築いた関係を確認したり強化したりすることや、後継者が自ら築くことが必要となるからである。

第4に、ファミリービジネスにおいて、社会的な関係が与える内容は、世代によって変化する。これは、関係が必ずしも利益を決定するわけではないからである。

第5に、ファミリービジネスにおいて、事業承継において、社会的な資源に結びつくあいまいな弱い紐帯は、なくなってしまう。これは、社会的な関係があいまいであるほどその承継は非常に難しいため、事業承継を経ることでその社会関係資本を失ってしまうのである。

シュタイヤー (2001)の研究を踏まえれば、事業承継における人脈を承継させる上で、計画的な承継が可能であることが分かる。具体的には、様々な職場や職能を経ることで、創業者が築いた人との関係性を理解し、強固していくことで、承継が可能になると考えられる。しかしながら、最も重要となるのは、事業承継においてリーダーシップや職位の承継のみならず、創業者がもつ社会関係資本、すなわち人脈をいかに承継させるかについても検討することである。