ファミリービジネスアドバイザーの役割とは?

ファミリービジネスの経営者は、家族経営特有の様々な悩みや問題を抱えている。例えば、後継者問題や既存事業存続の是非などである。このような問題を家族経営者だけで解決するのは不安が生じる場合がある。しかしながら、ファミリービジネスは、家族としての私的な側面もあるため、外部者に相談することがためらわれる場合もある。このような状況の中で、ファミリービジネスの問題に向き合うファミリービジネスアドバイザーは重要な役割を持つ。また、企業への助言をするアドバイザーは企業の業績に密接に関係する意味でも重要である。ここで言うアドバイザーの役割とは、企業に対して専門的知識や追加的な視点や、企業のオーナーや管理者が提供できないような情報を提供することである。また、ファミリービジネスへのアドバイスは、家族と企業両方の経済的・非経済的な目標に対応し、家族制度のみならず、ビジネスシステムにも対応しなければならない。今回は、ナルディら(2015)の研究をもとに、中小企業のファミリービジネスにおけるファミリービジネスアドバイザーの役割と、ファミリービジネスとの関係性、および業績への影響を明らかにする。そのために、スチュワードシップ(stewardship)※1とエージェンシー (agency)※2の2つの立場を加味した仮説検証の研究結果を提示する。

※1スチュワードシップ理論とは、アドバイザーが依頼者の意図に沿った活動を行うという考え方。

※2エージェンシー理論とは、アドバイザーはアドバイザー自己の利益のために活動し、依頼者の利益を損ねるという考え方。

まず、研究では、ファミリービジネスアドバイザーのスチュワードシップとエージェンシーの理論的な立場を検討している。スチュワードシップ型のアドバイザーは、家族のメンバーが、ファミリービジネスのスチュワード(奉仕者)として、将来の世代への支援と成果の最大化を目指している。また、スチュワードシップは、企業の長期的な継続性に努め、スタッフとの良好な関係に基づいたコミュニティ文化を発展させ、外部ステークホルダーとの強い関係を育む。さらに、スチュワードとしての行動は、関係の葛藤を減らし、信頼関係や相互依存性、家族の長期的成功へのコミットメントを促進することで、家族関係を強化するのに役に立つ。つまり、スチュワードシップのアドバイザーは、ファミリービジネスの奉仕者として、ファミリービジネスの発展のために行動する。

一方で、エージェンシー型のアドバイザーは、家族に対して、偏狭な嗜好や目的から行動し、企業で最小投資をする意図を持ち、リスクを回避するような、業績に悪影響を与える個人的なリソースを引き出す。家族は他の株主を犠牲にして、家族とそのニーズのみを満たすために事業を利用する可能性がある。例えば、個人的な目的のために、無期限の家族経営幹部を雇用したり、会社に過小投資をしたりする。そして、家族は家族資産を保持し、一定の配当を受けるリスクを回避してしまう。その結果として、ファミリービジネスは、インフラストラクチャーやビジネスの未来への投資が悪化し、配当や費用のための資源が不足することにもなりうる。つまり、エージェンシーのアドバイザーは、家族に対して利己的な目的で行動する。

以上より、スチュワードシップとエージェンシーの視点は、補完的であり、ファミリービジネスアドバイザーの視点をファミリービジネスに説明するのに有用である理論として考えられている。

仮説1:ファミリービジネスアドバイザーの数と企業業績との間に逆U字型の関係となる。

ファミリービジネスのアドバイザーの数と業績の関係についての仮説を提示する。アドバイザーの役割はファミリービジネスにとって重要であるが、ファミリービジネスがパフォーマンスを高めるために必要とされるアドバイザーの数には限界がある。その理由は3つある。

まず、集団サイズの増大は、協調、モチベーション、コンフリクトを含む課題が生じるためである。ファミリービジネスアドバイザーが増加すると、家族間でのコミュニケーション・リンケージの数が増加するため、調整損失が生じる可能性がある。つまり、ファミリービジネスアドバイザーの増加によって、誤ったコミュニケーションや留保事項のリスクを増加させ、モニタリングメカニズムの実施とエージェンシーコストの増加が必要になってしまう。

2つ目の理由は、ファミリービジネスアドバイザーが多い場合、ビジネスを明確にすることがあまりできないため、スチュワードとして振る舞う動機が低下してしまう可能性がある。

アドバイザーの数に限界がある3つ目の理由は、ファミリービジネスアドバイザー同士でコンフリクトや競争が生じる可能性が大きくなるためである。

このようにファミリービジネスアドバイザーが企業の業績にいい影響を与える一方で、ファミリービジネスアドバイザーの数が一定の閾値に達すると、監視と調整のコストとグループでの思考や関係のコンフリクトはスチュワードシップではなくなる可能性がある。以上より、次のような仮説が導出される。

仮説2:ファミリービジネスの世代において、ファミリービジネスアドバイザーは、a. 創業者によって経営されているファミリービジネスではパフォーマンスにポジティブな関係を持ち、b. 後世代によって経営されているファミリービジネスではパフォーマンスが逆U字型の関係を持つように、ファミリービジネスアドバイザーの数と企業業績の関係となる。

次に、ファミリービジネスアドバイザーの数とファミリービジネスの世代による業績の関係についての仮説を提示する。創業者が健在であるファミリービジネスでは、家族の創造性や企業家精神が高いため、誤った行動を取るリスクは低く、伝統的な成長戦略を継続する。一方で、創業者に関係する人が比較的少ない場合、情報の非対称性に起因するエージェンシーコストは低くなる傾向にある。しかし、小規模で若く、製品の多様化が進んでいない事業では、専門家のファミリービジネスアドバイザーが成長を促す洞察と知識を助言する必要がある。ファミリービジネスアドバイザーは、重要な分野で指導を行うことで、重要なスチュワードシップの役割を果たすことができ、会社の創設者やその他の関係者が明確な方向性を持って新しい事業の成長を促すことを可能にする。したがって、ファミリービジネスアドバイザーの数と創業者が健在であるファミリービジネスの業績の間には正の相関があると予測される。つまり、ファミリービジネスアドバイザーが多いほど、業績に大きな影響を与える。

一方で、後世代のファミリービジネスでは、逆U字型の関係があると考えられる。後世代のファミリービジネスアドバイザーは、ファミリービジネスが富を継承している可能性があると考えるため、リスク回避をより重視する。また、創業者の価値観への感情的な愛着のために、過去の戦略に依存する傾向がアドバイザーの傾向によって悪化する。

以上の仮説を検証するために、無作為抽出サンプルを用いて、スウェーデンのファミリービジネス128社に電話とオンラインでの調査を行なった。

ファミリービジネスアドバイザーは後継者の場合、1,2名が最適。

調査結果として、仮説1は図1のように支持された。具体的には、ファミリービジネスアドバイザーが2人以上増加するとエージェンシーコストとして業績に悪影響を及ぼすことが明らかになった。仮説2aは支持されなかったが、仮説2bは図2のように支持された。つまり、ファミリービジネスアドバイザーの数と企業の業績の関係が経営している世代によって異なることを示した。すなわち、創業者の支配力は、意思決定を促進しており、アドバイスの影響が受けにくく、ファミリービジネスアドバイザーの影響を軽減してしまう可能性があると言える。一方で、後世代に経営されている企業では、逆U字型の関係が観察された。これは、前の世代の家族の資産を保護する傾向と家族の間で生じるコンフリクトも同様に、モニタリングと調整のコストが高く、ファミリービジネスアドバイザーの数が多いほど、パフォーマンスが低下する。したがって、ファミリービジネスアドバイザーの数が業績に重要であることを示唆するだけでなく、ファミリービジネスアドバイザーの効果が経営している世代によって大きく異なることが明らかになった。

まとめると、中小企業において、スチュワード行動とエージェンシー行動の関係とその結果の業績は、ファミリービジネスアドバイザーの数と事業の世代によって決まることが示唆された。

この研究を通して提言できることは、ファミリービジネスの経営者は、ファミリーの知識やスキルに頼るだけではなく、ファミリーの外にいる熟練したプロフェッショナルな幹部を採用する必要がある。例えば、創業者経営から後継者に事業を継承しても競争優位を獲得することが必要であり、そのためにファミリービジネスに組み込まれるような外部アドバイザーに依拠する必要性がある。

しかしながら、ファミリービジネスアドバイザーは、創業者には害を及ばさないが、後継者がアドバイザーに依存しすぎると、エージェンシーの問題を引き起こし、ファミリービジネスの問題を解決できないというリスクもある。そのリスクを減らすためには、後継者は、創業者よりもファミリービジネスアドバイザーの個人的な好みや気質に注意を払わなければならない。したがって、ファミリービジネスは、ファミリービジネスアドバイザーとどのように関わっていくかを考える上で、アドバイザーや自らが経営するファミリービジネスの特性を理解することが求められるだろう。