子供(後継者)にいかにしてリーダーシップを身につけさせるのか?

ファミリービジネスにおいて、創業者は高いリーダーシップを発揮していると考えられている。なぜなら、創業者自身のリーダーシップによって、ビジネスが創業し、彼のリーダーシップによって、ビジネスが拡大しているからだ。しかしながら、成長した企業を引き継ぐ後継者が、必ずしも創業者と同様のリーダーシップを有しているとは限らない。むしろ、創業者とは異なる性格や振る舞いをするであろう後継者も多くいる。すなわち、後継者育成において、後継者がビジネスをけん引することが可能となるリーダーシップを、いかにして獲得するかが涵養となる。そこで、今回の調査レポートで、後継者のリーダーシップの獲得に焦点を当てた研究を紹介したい。

カーターら(2009)は、ファミリービジネスにおける後継者にリーダーシップについて、より深い理解を目指した研究である。具体的には、どういった要因やそれらの要因の関係が、承継者のリーダーシップの発揮に影響を与えるのか、という研究課題を設定し、ケース・スタディを実施している。調査対象となった企業は、ファミリービジネスを行う6社であり、概要は下記の表にまとめている。

ケース・スタディの結果、後継者のリーダーシップに影響を与える要因として、次の6点が明らかとなった。

第1に、良好な親子関係である。
第2に、後継者育成の為の長期の準備期間である。
第3に、協働の精神である。
第4に、知識の獲得である。
第5に、マネジャーの役割の確立である。
第6に、リスク志向性である。

さらに、本研究では、これらの6点の要素が事業承継のなかで、どのようにリーダーシップに影響を与えるのか明らかにしている。具体的には、事業承継におけるリーダーシップの推移を4点の承継プロセスに分類し、それぞれの段階における要因の影響を明らかにしている。以下、6点の要因と4点のプロセスについて詳述したい。

まず、6点の要因について論じていく。第1に、良好な親子関係とは、創業者や先代の経営者である両親に対して、その後継者となるであろう子供が尊敬の念を抱いており、両者がポジティブな関係になることを指す。この親子関係が良好であれば、積極的な仕事に関する会話や、企業の中における両親からのサポート、さらには、パートタイムやインターンといった仕事に従事することも可能となる。その結果、子供は自らの後継者としてキャリアをスムーズに開始することが可能となり、自身のリーダーシップに関するスキルについても発達させることが可能となる。以上より、前任者と後継者の間における良好な親子関係は、後継者のリーダーシップを促進するのである。

第2に、長期の準備期間とは、後継者の事業承継に向けての創業者や前任者が長期的な視点から導入を指す。長い時間をかけて、会社への参入をサポートすることによって、後継者は自社へのコミットメントが高くなると共に、自社の顧客に対する感謝を持つようになる。さらに、後継者は自社の伝統について理解するようになる。その結果、後継者は経営者としての視点を獲得するようになり、リーダーシップの発揮が促される。以上より、後継者の長期的な準備期間は、後継者のリーダーシップを促進するのである。

第3に、協働の精神とは、世代を越えた企業経営へのパワーや責任の共有である。調査対象となった6社では、経営者の世代のみならず、次世代の後継者においても、会社を担っていくパワーや権力が共有されていた。その結果、将来的に経営者となる後継者自身のリーダーシップが醸成されることになる。以上より、後継者のもつ協働の精神は、彼らのリーダーシップを促進するのである。

第4に、知識の獲得とは、後継者が企業に関する知見や業種や業界に関する知見を得ることである。後継者がより早く経営に関わる知識を獲得することによって、後継者は自らが従業員をより合理的にけん引することができると理解する。その結果、後継者はみずからのリーダーシップを発達させることになる。以上より、素早い企業や業界の知識の獲得は、後継者のリーダーシップの発達を促進するのである。

第5に、マネジャーの役割の確立とは、先代の創業者とは異なる企業のゴーイング・コンサーンを目的とした、自身の役割を理解することである。ケース・スタディでは、多くの2代目・3代目となる事業承継者は、自らを起業家としてではなく、マネジャーとして捉えていた。後継者がそのような役割を自認することで、より企業においてリーダーシップを取るようになる。以上より、後継者によるマネジャーの役割を理解は、後継者のリーダーシップの発達を促進するのである。

第6に、リスク志向性とは、後継者がリスクをどの程度取るのかに関する程度である。後継者は、先代の創業者がリスクを取ることでビジネスを興したことを理解している一方、自らはファミリービジネスを継続させようとするしなければなら意思決定を避けがちとなる。しかしながら、調査対象となった6社における後継者は、先代の創業者よりもよりリスク志向性が高いと理解していた。以上より、後継者のリスク志向性は、意思決定を通じ、自身のリーダーシップの発達を促すのである。

事業承継のプロセスと6つの要因との関係性

次に、上述した6点の要因が、事業承継のプロセスにおいてどういった影響を与えるのか、事業承継を4段階に分類しながら説明したい。 まず、承継の第1段階は、現職の経営者がリーダーであり、後継者が学生やフォロワーの段階となる。 承継の第2段階は、現職の経営者が主権者であり、後継者が支援者の段階となる。 承継の第3段階は、現職の経営者が管理者であり、後継者がマネジャーとなる。 最後に、承継の第4段階は、現職の経営者がコンサルタント(支援者)であり、後継者がリーダーとなる。

このプロセスにおいて、「良好な親子関係」、「長期の準備期間」、「協働の精神」は、第1段階から第4段階のすべてにおいて、従業員のリーダーシップを促すことになる。これは、上述の3点の要因が、全ての段階において涵養となるものであるからである。次に、「知識の獲得」は、第1段階と第2段階においてリーダーシップを促すことになる。なぜなら、企業や業界の知識は、ビジネスに参画する際により重要になるからである。最後に、「リスク志向性」は、第3段階と第4段階においてリーダーシップを促すことになる。なぜなら、リスク志向性がマネジャーやリーダーとしてビジネスをけん引するために必要となるからである。

以上のカーターら(2009)の研究を踏まえると、後継者のリーダーシップの獲得を促すためには、以下が肝要となる。まず、後継者のリーダーシップ育成について、長期的な計画を練る。一朝一夕に子供がリーダーシップを発揮するわけではなく、子供にとって自社がリーダーシップを発揮したい企業であることや、子供にとって自社の顧客が期待に応えるべき存在であること、さらには幼少期からリーダーシップを発揮する人材であると理解させることが必要となる。そのために必要となるのは、子供と前向きな関係を築く必要があるだろうし、早い段階から共に経営に担っていく協働の感覚を醸成することが必要となるだろう。次に、長期的な計画を練る上で、企業に関わる知見について伝えていくことも求められる。後継者は、社内外の関係者から、強いプレッシャーを受けることになる。そのような状況において、十分な知識は後継者を力強くサポートすることになるだろう。最後に、積極的に意思決定やビジネスへの参画を促すことが重要となる。ビジネスを興し、規模を大きくした創業者の次世代を担う後継者にとって、会社を守ることに動機づけられかねない。そのような場合、後継者が十分にリーダーシップを発揮することは困難となるだろう。よって、後継者には、リスクを避けるのではなくリスクを積極的に取るよう動機づけることが求められる。