本当に長男を後継者にすることが良いことなのか?

ファミリービジネスをするにあたって、ファミリービジネスのオーナーシップと経営管理、企業の業績の関係は重要な課題である。特に、創業者にとってファミリービジネスのオーナーとCEOの後継者を誰にするのかは悩ましい問題である。これは、ファミリービジネスが抱えている家族とビジネスの二面性がファミリービジネスのオーナーシップやリーダーシップの後継ぎの複雑さを反映している。例えば、慣例にしたがい、長男に後継ぎをさせるのがベストな選択なのか、あるいは、CEOは長男以外もしくは家族ではない優秀な者に任せるという選択肢も存在する。また、所有と経営のコントロールの分離は、企業間の自己利益と相まって業績の低下を招く影響を引き起こす可能性もある。このようなファミリービジネスにおける後継者の問題にヒントを示すのが今回紹介する論文である。

シェケルら(2016)は、韓国のファミリービジネスのサンプルから集められたデータをもとに、後継者である子どもの出生の順番(長男であるかそうでないか)と役割が、ファミリービジネスの業績にどのような影響を与えるのかを研究した。

まず、ファミリービジネスの創業者は、後継者も家族にすることが多い傾向にある。なぜなら、創業者は、在職期間が終わると家族が会社を支配することに焦点を当てるからである。つまり、遺産の永続に関心がある。また、文化的な規範もファミリービジネスに影響している。西洋文化では、出生の順番は、職業役割の決定要因として長い間影響してきた。

家族がCEOを務める理由の1つとして、出生の順番がアイデンティティ(個性)の発達に影響を与えている可能性があるからである。ここで述べるアイデンティティとは、「典型的な複数の役割に付随する意味から自己を構成すること」である。難解な表現ではあるが、ファミリービジネスに置き換えて説明すると、まず、心理学的な側面では、自分を家族の一員として認識することから、家族がファミリービジネスに感情的に参加意識を強めていると考えられる。一方で、社会学的な側面では、長男は、創業者である両親を指導者として成功させるために不当な義務を負っているとみなされていると説明できる。

仮説導出にあたって、長男と長男以外の発達経験が、リーダーとしての意思決定を行う際のそれぞれの役割のアイデンティティを内在化する上での違いにつながる可能性があると仮定している。例えば、長男は、発達期に親と過ごしている時間が多いため、親を理想化する傾向にある。そのため、創業者である親の道徳や戦略とより密接に連携して慎重なリーダーシップを支持する傾向にある。一方で、長男以外は、発達期に両親と1対1で過ごしたことが比較的少ない。したがって、長男以外は、権威に対して反抗する傾向がある。そのため、長男以外は、独自のニッチを切り拓く手段としてユニークさを目指す傾向がある。また、長男以外は、家族とビジネスとの関係において、創業者である親を敵対するのではなく、より強固なバランスを追求する可能性が高い。

以上より、次の仮説が導出される。

仮説1a:長男のオーナーシップは、長男CEOの任命と正の関係がある。
仮説1b:長男以外のオーナーシップは、長男以外のCEOの任命と正の関係がある。
仮説1c:長男以外のオーナーシップは、家族以外のCEOの任命と正の関係がある。

長男は、長男以外の対応とは異なり、創業者である親によって、より強く戦略的な関係を特徴とするネットワークに入れられる可能性が高い。これまでのファミリービジネスの研究では、長男に一定の権利と特権が与えられる可能性示されていた。一方で、長男以外は、企業外との結びつきを追求し、家族の中で自分を差別化する可能性がある

したがって、次の仮説が導出される。

仮説2a:長男以外のオーナーシップは、家族でない取締役会の参加と正の関係がある。
仮説2b:長男以外のオーナーシップは、外部の大株主と正の相関がある。

長男以外のファミリービジネスのCEOは外部のリソースを活用する傾向にある?

長男以外のファミリービジネスのCEOは、リーダーシップやオペレーションに関する自発性や想像力や創造性、社会性を保持できる利点がある。つまり、企業の価値を高めることのできる社外取締役や株主に関する新しい情報や考え方を受け容れることができる。

したがって、次の仮説が導出される。

仮説3a:長男以外がCEOである場合、いい業績が外部の大株主に関連するように、外部の大株主と企業の業績の関係を調整する。
仮説3b:長男以外がCEOと最大の株主の両方である場合、いい業績が外部の大株主と関係するように、外部の大株主と企業の業績の関係を調整する。

以上の仮説をもとに、韓国のファミリービジネスをサンプルに、重回帰分析を行なって仮説の検証をした。

長男以外の方が好業績となる結果に。

結果として、仮説は支持され、長男と比較して、長男以外が主導するファミリービジネスの方が、ファミリービジネスの業績が高くなることが明らかになった

以上の研究から、3つの知見が得られた。
1つ目は、子どもの出生の順番は、オーナーシップ、リーダーシップ(CEO)、外部への参加やガバナンスを通してコントロールの分配による違いに直接関係していることである。
2つ目は、ファミリービジネスおける所有と経営の関係の複雑な性質を明らかにしたことである。出生の順番は、業績を向上させるための外部ガバナンス構造の有効性において系統的な役割を果たしているということである。
3つ目は、長男がCEOをすることに否定的な示唆を示したことである。ファミリービジネスの業績が異なるため、長男のCEOは、時間の経過とともによく配置変えされることを明らかにした。

今回紹介した論文は、確かにファミリービジネスの後継ぎの問題において重要な示唆を与えてくれるものではあったが、いくつかの限界も考えられる。まず、この研究は韓国のみのデータに基づいているため、他の国で知見がどれだけ適用できるかは明らかになっていない。韓国は、家庭主義的、財閥との関係性がある国である。日本でも家庭主義的な文化はあるが、家族のあり方は一様ではない。また、長男と長男以外の関係の変数を探求していない点がある。

最後に、ファミリービジネスのオーナーシップやCEOが長男であるかそうでないかで業績が変わることは無関係であるように思われるかもしれない。しかし慣例に従い、長男を後継者とする場合、ファミリービジネスの負の側面である企業ガバナンスの整備などができずに、うまく経営できないことが想定される。本論文を参考に、一度、ファミリービジネスにおけるガバナンスのあり方について検討されてはどうか。