ファミリービジネスにおける家族の関与は、ファミリービジネスの特徴であり、コンフリクトの要因として議論されてきた。家族とビジネスの関係では、オーナーは仕事と家族の役割の葛藤を経験する。さらに、家族は家族以外の従業員や、家族の株主と家族以外の株主の間でのコンフリクトや、事業承継の際にコンフリクトが生じることもある。例えば、承継者が資産や家族内の権力分配で対立することも考えられる。そこで、本論文では家族に関するコンフリクトをマネジメントする構造を明らかにする。結論を先取りすると、仕事と家庭のコンフリクト、利益の相反、関係性のコンフリクトが家族に関するコンフリクトとなり、これらのコンフリクトに対処するために、あらゆるコンフリクトマネジメント戦略が用いられる。本論文ではコンフリクト研究、パラドクス研究、弁証法研究の知見を統合することで、家族に関するコンフリクトとそのマネジメント戦略を論じていく。

これまでの研究では家族に関するコンフリクトは悪い意思決定や家族以外の従業員の高い離職率、会社のパフォーマンスの減少が示されてきた。一方で家族の異なる視点のコンフリクトが生産的な議論を促進し、戦略的な計画を支援する可能性も示唆されている。したがって、家族の関与がファミリービジネスに望ましいようにマネジメントすることが必要である。

本論文では、家族に関するコンフリクトのパターンとコンフリクトマネジメント戦略との関連性に着目し、2つの言及をする。1つはファミリービジネスにおける家族の関与が家族に関するコンフリクトとコンフリクトマネジメント戦略にどのような影響を与えるのかを明らかにする。もう1つはパラドクスや弁証法の理論に基づいて、ファミリービジネスのコンフリクトマネジメント戦略のパターンを探索する。

家族に関するコンフリクトの対象範囲と定義とレビュー方法

本論文では家族・ビジネス・オーナーシップと、仕事・家庭のコンフリクトに着目する。コンフリクトとは「社会的実体の内部または間の非互換性、不一致、または差異で生じた相互作用的プロセス」であり、コンフリクトマネジメントとはコンフリクトの機能不全を最小化し、建設的な機能を高めるために個人や組織が行う一連の行動である。これまでの研究を整理するために、ファミリービジネス研究におけるいくつかのキーワードを検索した。具体的には、「ジレンマ、ライバル、コンフリクト、不一致、緊張、不和、確執」および「家族の会社・事業・企業」、「家族がコントロールする会社・事業・企業」、「家族が所有の会社・事業・企業」、「家族経営の会社・事業・企業」のキーワードを含め、最終的に276の論文を対象とした。

次に、家族に関するコンフリクトに関する研究を先行要因、特徴、結果に分類する。まず、先行要因では3つの知見が明らかにされている。
1つめは先行要因とコンフリクトの関係はダイナミクスがある。例えば、親子関係の悪さや世代間の格差など家族のシステムに関する先行要因は家族のライフサイクルで変容する可能性がある。
2つめの知見は、いくつかの先行要因は伝達可能性を持っており、コンフリクトが他のシステムに影響する可能性が高い。例えば、親の不公正な扱いが家族とビジネスの両方で兄弟のコンフリクトを引き起こす。このように複数の視点でコンフリクトの要因を特定して対処することが望ましいが、バランスをとることが必要になる。例えば、コミュニケーションが少なすぎても多すぎても、コンフリクトを引き起こす。
3つめに、コンフリクトの先行要因は別のコンフリクトの発生を抑えるために戦略的に利用される可能性がある。例えば、家族がビジネスに関与することで、家族間でタスクに関する意見の相違が増える可能性が高い一方で、家族が意見の違いを会議外で対処することが多い場合、家族の関与が取締役会のメンバー間のタスクコンフリクトを減らすのに有用である可能性がある

次に、コンフリクトの特徴を述べる。家族に関するコンフリクトはいくつかの種類があるが、最も多いのは自己利益追求のための行動が利益相反するコンフリクトである。このコンフリクトは創業者と経営者、多数派の家族の株主と少数派の株主で生じる。もう1つのコンフリクトの種類は家族とビジネスのコンフリクトである。家族は家族とビジネスの役割の重複があり、役割やアイデンティティに基づく葛藤が生じる。さらに、関係性や個人的な敵意の認識も家族に関するコンフリクトとして扱われている。その他にはタスクやプロセスのコンフリクトがある。

コンフリクトがもたらす結果は、ファミリービジネスに負の影響を及ぼすとされてきた。しかし、家族間の互恵性が低く、ファミリービジネスのオーナーシップが一世代である場合は、タスクコンフリクトが有益になるという示唆もある。また、仕事と家族の役割が重複している個人は、パートナーが仕事へのポジティブな態度を持っている場合、仕事と家族の両方に豊かさを感じる可能性がある。

家族に関するコンフリクトマネジメントの研究

家族に関するコンフリクトマネジメントの3つの理論的なアプローチとして、コンティンジェンシーとパラドクスと弁証法について説明する。

まず、コンティンジェンシーアプローチは、コンフリクトの一方を選択する思考であり、回避、分離、適応、競争の4つの戦略がある。順に説明すると、まず、回避はコンフリクトから離れる選択であり、コンフリクトへの応答の欠如、否定、ビジネスや家族からの離脱がある。回避はコンフリクトプロセスの初期段階では最も簡単な選択だが、根本的な対処にはならないため否定的な見方が一般にされる。頻繁な回避は家族の低い信頼をもたらす一方で、家族以外のメンバーが短期間しかいない場合は家族と家族以外のコンフリクトに対処する上で現実的な選択肢になり得る。さらに、回避はクールダウンのための戦略として用いることができ、人びとが適切な長期的戦略を見出すためにタイミングを待つ意味がある。

次に分離は回避とは異なり能動的な方法である。分離は会議のスケジューリングのような時間的な分離と、家族以外の専門家の雇用によってオーナーシップを分けるような空間的な分離、対立する家族を分けるために別の部門を設置することが挙げられる。また、家族のオフィスやトラストを設置して、グループ内のコンフリクトを回避するケースもある。分離の利点は対立する当事者や領域に明確な境界線を引くことで、コンフリクトの複雑さを軽減する。逆に、分離は家族からの社会的支援などのコストを発生させることがある。このように、いくつかの欠点はあるが、分離は役割や責任をマネジメントする上で重要な戦略である。

次に、適応は他者の利益に結びつける性質である。利他主義は家族の相互利益に向けて家族各人が関心のある交換活動を伴う場合や、家族の忠誠心を促進し、家族のニーズや長期的な利益に基づいて資源を分配する行動を伴う場合がある。ただ、適応はファミリービジネスではあまり用いられていない。また、適応は否定的な結果をもたらすことも示唆されている。例えば、適応は家族の依存性や権威を高め、縁故採用につながる可能性もある。家族主義が高まると、ビジネス上の重要な問題の無視、利益の犠牲、不公正感の増加など、新たなコンフリクトの発生につながる可能性がある。一方でポジティブな側面は、利他主義的な適応は人間関係のコンフリクトを減らし、高い家族満足度の結果につながる。したがって、適応は家族にはいいが、ビジネスの観点では必ずしもよくない関係構築の戦略である。

最後に、支配や競争の戦略は自己利益に着目し、他の当事者に自分の意志、希望を訴える行為である。支配は権威を利用し相手を従わることや、競争を経て達成することが多い。この戦略は勝者と敗者が生じるため、否定的に捉えられている。さらに、競争はマネジメントに多くの時間と感情的資源を必要とし、多様な意見の主張を抑制し、効果的な知識の流れを阻害し、意思決定の質を損なう可能性がある。一方で、親が兄弟に適度な競争を促すことはいい効果があるとされる。また、家族の株主や経営者の数を減らすことで家族のオーナーシップを統合することは、家族の調和とファミリービジネスの業績を向上させる側面もある。

次にパラドクスのアプローチは、逆説的な選択を同時にマネジメントするアプローチであり、具体的に、ゆらぎ、妥協、協同、統合の4つの戦略を示す。まず、ゆらぎは、異なる時期や文脈で相反する要求を行き来する。ゆらぎはビジネスを支援するための家族の資源を調整したり、先延ばしにしたりすることが多い。ゆらぎは柔軟性を示し、家族とビジネスの両方のニーズに対応できるが、その有効性は様々な調整をいつ、どのように、どれくらいの頻度で用いるかに依存する。

妥協はそれぞれの当事者が犠牲を伴うため最も悪いコンフリクトマネジメントの解決策である。例えば、ファミリービジネスの妥協は共同のCEOを雇うことが挙げられる。妥協は家族内の人間関係のコンフリクトを軽減し、新たなコンフリクトの発生を抑制するかもしれない。しかし、妥協は当事者の部分的利益のみに対応するため、新しい解決策についての議論を制限する一時的で都合のいいものとみなされる。

協同は当事者の懸念を満たす解決策としてウィンウィンの戦略である。参加的な意思決定はファミリービジネスの協同のひとつである。ただし、協同は時間がかかるので実行が容易ではない。また、相互信頼や支援、オープンなコミュニケーション、創造性、チームワークを重視する文化で生じるため、迅速な対応が必要なコンフリクトや信頼の組織文化のないファミリービジネスでは協同は非現実的である。

統合は、協同と同様にウィンウィンの解決策である。ただし、統合は家族、ビジネス、オーナーシップの間の境界をなくすことに焦点を当てており、分離戦略の反対である。統合はビジネスと家族のコンフリクトの対処に用いられることが多い。例えば、女性起業家は母親と事業主であることのコンフリクトに対処するために、自分のライフスタイルとビジネススタイルを統合し、ルーチンを確立することがある。組織的には統合は家族と家族以外のコンフリクトの対処に用いられる。例えばファミリービジネスでは家族以外の従業員を信頼し、包摂的であり、ビジョンや価値観を共有することを強調することで、家族以外の従業員を統合できるとしている。しかし、統合は家族とビジネスのアイデンティティの境界を曖昧にし、新たなコンフリクトの可能性も生む。

3つめに、弁証法アプローチは、テーゼとアンチテーゼの動的な相互作用であり、具体的には、第三者の関与、ガバナンスツールの利用、変化と学習を通じたコンフリクトの変容を示す。まず、第三者を関与させることは中立的な外部の人が新たな視点を提供し、コミュニケーションや相互作用を促進し、否定的な感情を発散させることができるため、ファミリービジネスでよく用いられるコンフリクトマネジメントである。最も一般的な第三者は配偶者、親、家族以外のメンバー、ファミリーコンサルタント、セラピスト、仲裁人、弁護士である。ほとんどの第三者の介入は協力を促進するための手段であるが、コンフリクトプロセスを支配する可能性がある。つまり、第三者の介入はコンフリクト解決に影響を与えるだけではなく、そのダイナミクスにも影響を与え、対立する当事者間の権力配分やコンフリクトを支配するルールも変える可能性がある。したがって、理想的な第三者は、客観性を確保するために当事者と十分な距離を保ち、結果に利害関係を持たず、操作やスケープゴートを回避する必要がある。

次に、コーポレートガバナンス(家族会議、取締役会、家族協議会)がコンフリクトマネジメントの構造として示されている。このような制度化は役割と責任を明確にし、コンフリクトを予防することに有用であり、共有された価値観を形成する。さらに、ガバナンスツールはコンフリクトの肯定的な結果を最大化する。例えば、悪魔の代弁者を割り当てることで意思決定の質を上げることができる。

最後に変容と学習は、既存の実践を変えるか、新しい戦術を学ぶことによってコンフリクトに対処する新しい方法を見出す。変容は政治、権力、関係、態度、価値観の変化を意味し、対立する相手との統合をみいだす。例えば、メンバーに性格の違いを教育することで、対人関係が強化される。この戦略の課題は変容や学習には時間がかかるため短期的な解決が必要な場合、適切ではない。また、学習は行動変化が必要であり、変化はコンフリクトのきっかけとなることがある。

以上を要約すると、3つの知見がある。

1つめはファミリービジネス特有の文脈がコンフリクトマネジメント戦略の利用に影響を与えている。例えば人間関係のコンフリクトが多いことや家族内の感情的なつながりが強いことが分離や第三者介入の戦略に寄与していると考えられる。

2つめに、回避や適応のような一方的なアプローチの方が実践しやすく、短期的な解決策が多い。一方、協同や変容・学習は多くの時間と労力を要するため、長期的戦略として位置づけられる。したがって、短期・長期の複数の戦略を同時に用いることが可能である。

3つめは、コンフリクトマネジメント戦略は他のコンフリクトマネジメントを促進・阻害する可能性がある。例えば、適応や利他主義は参加の戦略を促進する。

 

本論文では家族に関するコンフリクトの理解をするために、ポジティブ・ネガティブ双方の側面を考慮して包括的に議論してきた。ファミリービジネスの経営者はコンフリクトの良き側面を最大化し、悪しき側面を最小化するために、様々なコンフリクトとそのマネジメント戦略が相互作用し変化する構造についての知見が必要である。例えば、好ましくない戦略として考えられている回避戦略は、家族と家族以外のコンフリクトの対処に有用である可能性もある。本論文ではコンフリクトの要因、特徴、結果を、コンフリクトマネジメント戦略と結びつけた。コンティンジェンシーの視点に加えて、パラドクスと弁証法の視点を取り入れることで、コンフリクトマネジメント戦略を分析した。本論文は家族に関するコンフリクトについての理解のための基盤となるだろう。

 

参考文献

Qiu, H., & Freel, M. (2019). Managing Family-Related Conflicts in Family Businesses: A Review and Research Agenda. Family Business Review, 33(1), 90-113.