今回のレポートでは、ファミリービジネスにおける最も信頼されるアドバイザー(Most Trusted Advisor: 以下、MTA)とはどのようなアドバイザーなのか、また、そのアドバイスのプロセスについて述べていく。ファミリービジネスでは、アドバイザーは第三者の客観的な意見をただ述べればいいというわけではなく、家族やファミリービジネスが抱えている感情や信念などに対する配慮を含めた繊細なアドバイスが不可欠である。このような繊細なアドバイスの構造を明らかにするために、ストライク(2013)の論文に基づいて、ファミリービジネスにおいて、アドバイザーがどのように家族の注目を喚起するのかについてのプロセスモデルを提示する。

ファミリービジネスにおける最も信頼されるアドバイザー(Most Trusted Advisor)とは?

ファミリービジネスにおけるアドバイザーは、戦略策定、計画、事業承継、問題解決などの役割がある。客観的なアドバイスとして課題に対する直接的な方法でアドバイスをおこなうこともある一方で、繊細なアドバイスはファミリービジネスの存続のために不可欠である。繊細なアドバイスとは、集団的注目(他者からの関心)を喚起するためのアドバイスである。繊細なアドバイスの構造を明らかにするために、2つのリサーチクエスチョンを示す。

1.MTAは、どのように家族の興味や関心を捉えてアドバイスするのか?

2.MTAは、家族の集団的注目の環境(他者からの関心)をどのように促進するのか?

結論からいうと、この研究によって、3つのことが明らかにされた。まず、MTAの役割が特定されたことである。2つめに、MTAによる繊細なアドバイスが、どのようにファミリービジネスに浸透していくのかの構造を明らかにした。3つめに、MTAは自己利益ではなく、ファミリービジネスにどのような利益をもたらすのかを示した。

調査は、9人のMTAと6つのファミリービジネスを対象とし、各インタビューは60分から120分行われ、観察も行われた。その結果、大きく3つの次元が提示された。注目を集めるための特性、注目の影響への順応、集団的注目の促進である。

図は、集団的注目を促進する最終的なプロセスモデルである。

最も信頼されるアドバイザーの立ち居振る舞い

まず、「注目を集めるための特性」は、MTAが持つ特性に関連しており、アドバイザーは、ファミリービジネスや家族からの注目を引きつけて聞き取るための権利を得る。非ファミリービジネスでは、アドバイザーは、通常、経営者や経営幹部に対してアドバイスをするが、ファミリービジネスでは、多くは家族の問題から課題が生じることに特徴がある。そのため、ファミリービジネスのアドバイザーは、CEOのみならず、家族のケアが必要とされる。具体的に、注目を集めるための特性には、発言(voice)と重み(weight)がある。発言は、家族の注目を惹きつけることができるMTAの特性である。家族に発言を注目してもらい、発言を維持するためには、信頼が非常に重要である。次に、重みとは、MTAにおける信頼性と妥当性、家族に聴いてもらう能力である。ファミリービジネスのアドバイザーには、ビジネスと家族の重複や、家族の感情や葛藤がファミリービジネスにどのように影響するのかについて共有されていた。また、ファミリービジネスのMTAは、様々な背景と分野での経験を積んでいるため、戦略的な見解を述べることができる。

次に、「注目の影響への順応」では、感情的な問題に対処するファミリーの能力とその意欲に適切な調整を加えることが、ファミリービジネスのコンサルティングのエンゲージメントにおける基盤を構成する。そのためには、自己知識、心理的洞察力、知的厳密さ、共感、大胆さ、規律の組み合わせが必要である (ヴォゴ, 2006, p. 35)。MTAが家族の問題にどのような影響を与え、関連する問題に注目させることを理解するためには、「他者との関係における自己」、「全体への貢献における自己」、「他者への決定バイアス」の3つの要素から説明できる。まず、「他者との関係における自己」とは、集団メンバーが集団内で他人や役割にどのように関係しているかについてMTAが理解をすることである。MTAは家族に何か問題があると心配する。例えば、MTAは息子の生活に何か問題が生じると真剣に心配する。さらに、MTAは、結果に対しても家族と同じくらい気にかける。次に、「全体への貢献における自己」とは、MTAが成し遂げた貢献であり、集団に行動がどのように影響するのかを示したものである。家族はMTAが自分たちに関心があると信用しているため、MTAは卒直なアドバイスを家族に示すことができる。また、MTAがファミリービジネスのために必要な知識やスキルを持っていない場合、専門知識を持つ人に頼ることになる。つまり、複数のアドバイザーをおくことで、アドバイスの信頼を高めるようにする。MTAはうまく発言できる特性を持っているため、他のアドバイザーに協力してもらうことに自信を持っている。このように、ファミリービジネス全体への貢献を意識することが必要である。3つめに、「他者への決定バイアス」とは、家族の決定や目標を受け容れて支援することである。MTAは、最終的な決定は家族がすることを理解している。また、注目の影響への順応のプロセスは、発言や重みに再循環される。

最も信頼されるアドバイザーによるファミリービジネスの変容

最後に、「集団的注目の促進」では、家族の注目を集めるために、MTAが可能にする貢献の維持や、問題を扱ったり示したりする家族の能力に調和することによって、集団的注意を促進するような環境が出来上がることを示している。集団的注目とは、問題に取り組み、家族を相互に結びつけ、全体に焦点を当てた行動を起こす家族の思考、行動、動機に対する意識の高まりである。具体的には「協同的相互関連」と「マインドフルガバナンス」の要素が必要になる。まず、「協同的相互関連」では、MTAは、家族がお互いに関連する役割を理解することや、一緒に働くことができるように家族が互いに協同し、関係することを助ける。ファミリービジネスでは、家族がビジネスから離脱(退職)する可能性は低いため、家族が互いに協力するために必要なスキルを開発する環境を促進することが必要である。そのため、それぞれの役割の理解が重要であり、ファミリービジネスのために何がいいのかを考えなければならない。さらに、ファミリービジネスでは、幼いころからファミリービジネスの手伝いをしてきた感情や葛藤がある場合もある。したがって、MTAは、家族の緊張の緩和や感情のバランス、協調をつくり上げることを助ける役割もある。MTAは、意思決定プロセスを容易にし、家族がグループとして行動できるようにし、最終的には統一された家族を目標にする。すなわち、家族の誰もが発言できるような環境にすることがMTAの目標である。次に、「マインドフルガバナンス」とは、思考や行動、モチベーションの認識をすることである(ランガー, 1989)。マインドフルガバナンスでは、MTAは、家族の意思決定を遅らせ、停止し、反映し、考えることで注目を向け直すように促した。特に創業者主導のファミリービジネスの経営者は、意思決定が早い傾向にあり、それによって正しい決定ではない場合がある。

本研究では、MTAの役割を明確にすること、どのようにMTAがファミリービジネスに価値を追加し、暗黙的なアドバイスプロセスを明確にするのかを理解することに注目した。アドバイスは、全体の実務だけではなく、繊細で根本的なプロセスから成り立っていることを明らかにした。

最後に、本研究の意義について4つ述べる。
まず、特定の分野での専門知識だけでは、信頼できるアドバイザーと認められるには不十分である。アドバイザーは、人格、強み、弱み、思考、信念、動機づけ、価値観、感情などに明確な認識をもっているような発言や自己認識をするために時間と労力を集中する必要がある。
2つめに、アドバイザーは、他のアドバイザーと協力して、専門分野を拡大することによって、アドバイスをするべきである。幅広い知識を持つことは、包括的な視点を持ち、正しい問題を知る上で重要である。
3つめに、家族のグループダイナミクス、感情、問題に対処する能力を理解して行動することは、ファミリービジネスへのアドバイスの基礎になる。
最後に、集団的注意の環境を促進する上で、アドバイザーは、家族のより高いレベルの目標に焦点を当て、焦点を絞るのではなく長期的にその目標を達成するために必要なスキルと能力を開発する必要がある。

以上のことを強調し、プロセスを明示したことが本研究の成果であると同時に、ファミリービジネスのアドバイザーに求められているスキルについて改めて考えるきっかけになることだろう。