ファミリービジネスの経営者にとって、自らの息子や娘や手を取り合えってビジネスに従事してくれるほど、嬉しいことはない。しかしながら、ビジネスの経営や後継者育成の難しさは、多くの経営者の知るところである。では、どのようにファミリーの兄弟を導けば、優れたチームになるのだろうか。本調査レポートでは、ファミリービジネスを対象に、チームが高い成果を上げるために求められる要因について検討したファーリントンら(2012)の研究を紹介したい。

まず、ファーリントンらは、兄弟によって構成されたチームの有効性を測定するために、「財務実績の認識」と「ファミリーのハーモニー」という2点の要因を採用した。
まず、財務実績の認識とは、実際の財務上の結果だけではなく財務的な利益や安心感を含む。
次に、ファミリーのハーモニーとは愛着や感謝、お互いの幸福に対する配慮といったものに特徴づけられる、ファミリーメンバー同士の調和の取れた関係となる。これは、ファミリーのハーモニーはファミリービジネスの成功においては、不可欠であると考えられているからである。

仮説1:ファミリーのハーモニーと、兄弟のチームにおける認識された財務実績の認識の間には、正の関係性がある。

まず、ファーリントンらはファミリーのハーモニーと財務実績の認識の間に正の関係があると考えている。なぜなら、既に述べたように、ファミリーのハーモニーはファミリービジネスにおける成功要因として位置づけられるからである。すなわち、ファミリーのハーモニーが高めれば高まるほど、財務実績の認識が促される。

次に、ファミリーのハーモニーと財務実績の認識に影響を与える要因として、戦略的リーダーシップ・資源の利用可能性・スキルの多様性・コンピテンシー・役割の明確さを取り上げる。
第1に、戦略的リーダーシップとは、ビジネスの目標やビジョンを提示するのみならず、戦略の策定と実行を行うリーダーを指す。チームを成功に導く上で、戦略的リーダーシップが示す目標の提示やビジョンや、それを達成する戦略は不可欠となる。
第2に、資源の利用可能性とは、情報や設備、仕事の状況といった資源へのアクセス可能性や活用可能性を指す。たとえ優秀なリーダーが存在しても、チームが活用できる資源がなければ成果を上げることができない。
第3に、兄弟のスキルの多様性やコンピテンシーも不可欠となる。なぜならチームを構成する兄弟の能力が偏っていたり能力が低い場合は、そのチームの有効性は低いだろう。
第4に、兄弟間における役割の明確さとは、ぞれぞれの兄弟の仕事の役割がどの程度明確かを指す。既存研究において高い有効性を示すチームは、それぞれのメンバーが互いの仕事を理解していると共に、役割が明確化している必要性を指摘している。ファーリントンらは、これらを踏まえ下記の仮説を導出している。

仮説2a:戦略的リーダーシップの存在と、兄弟のチームにおける財務実績の認識の間には、正の関係がある。
仮説2b:兄弟のチームにおける資源の利用可能性と、財務実績の認識の間には、正の関係がある。
仮説2c-2d:スキルの多様性および兄弟のコンピテンシーと、兄弟のチームにおける財務実践の認識の間には、正の関係がある。
仮説2e:兄弟間における役割の明確さと、兄弟のチームにおける財務実績の認識の間には、正の関係がある。
仮説3a:戦略的リーダーシップの存在と、兄弟のチームにおけるファミリーのハーモニーの間には、正の関係がある。
仮説3b:兄弟のチームにおける資源の利用可能性と、ファミリーのハーモニーの間には、正の関係がある。
仮説3c-3d:スキルの多様性および兄弟のコンピテンシーと、兄弟のチームにおけるファミリーのハーモニーの間には、正の関係がある。
仮説3e:兄弟間における役割の明確さと、兄弟のチームにおけるファミリーのハーモニーの間には、正の関係がある。
以上の仮説に基づき、ファーリントンらは、南アフリカにおける371名のファミリービジネスに従事する兄弟を対象に、質問紙調査を実施。調査の結果、仮説2b・仮説3a・仮説3cが支持された。すなわち、兄弟のチームにおける資源の利用可能性は、認識された財務実績と正の関係があることが明らかとなった。また、スキルの多様性と戦略的リーダーシップの存在は、ファミリーのハーモニーと正の関係があることが明らかとなった。

兄弟経営におけるマネジメントの要諦は「リーダーシップ」「多様性(役割分担)」「組織内での活動の自由度(資源の利用可能性)の担保」の3点

ファーリントンらの研究を踏まえると、兄弟たちが優れたチームとなるためには、リーダーシップとスキルの多様性(役割分担)にバランスが保たれることで、ファミリーのハーモニー、すなわち、ファミリーメンバーの良好な関係が維持できることが分かる。また、資源の利用可能性、つまり、ファミリーメンバーが組織内にタブーをつくることなく、活動の自由度が確保されることで、財務実績までの認識もできることになる。
このように、兄弟経営をうまくいかすためには、兄弟当事者同士に任せることなく、しっかりとしたマネジメントを実施しなければならないということである。先代経営者はそのようなマネジメントの仕組みを整備したうえで兄弟に経営のバトンを渡さなければ、永続できるファミリービジネスを実現することが難しいということの示唆ではないだろうか。