本レポートでは、ファミリービジネスにおける家族以外のメンバーの研究について、テイバー・クリスマン・マディソン・ヴァルダマン(2018)の論文を紹介する。ファミリービジネスにおける家族以外のメンバーに関する役割や影響や挑戦の研究がこれまで注目されてきた。本研究では、過去30年にわたる34のジャーナルで刊行されたファミリービジネスにおける家族以外のメンバーの82の論文を体系的にまとめていく。そこで、3つの潮流に関する文献の重複するテーマを統合した。3つの潮流とは、雇用前の配慮、雇用の配慮、家族以外の雇用の成果である。最終的にファミリービジネスでの家族以外のメンバーにおける研究を紹介するためにこれらのテーマを統合する今後の研究について提案した。
会社の文化や戦略や経営上のニーズに適応した従業員は、企業の存続のために必要である。ファミリービジネスでは人的資本のニーズを満たすために最初に家族に目を向ける傾向がある。しかし、家族は限定的なリソースであるため、家族以外の従業員がファミリービジネスに必要とされる。家族以外のメンバーに関する利益やコンフリクトは、これまで研究されてきた興味深いトピックである。家族以外のメンバーの多様な性質や多くの研究をふまえて、本研究の目的はファミリービジネスにおける家族ではないメンバーの研究の包括的なレビューと統合、拡大をすることである。
ノンファミリー採用時に考慮すべき3つの視点
論文レビューは1996年から2011年の215の家族の研究を対象におこなった。対象としたキーワードは、家族以外のメンバー、家族以外の従業員、家族以外のマネジャー、家族以外の取締役、家族以外のCEO、外部のCEOである。次に、対象期間の前後やリストに含まれていないジャーナルから関連する論文を取り入れるために検索範囲を広げた。さらに、包括的なリストを保証するために、コーポレート・ガバナンス、専門化、外部のマネジャーと家族の会社、家族の起業、ファミリービジネスのキーワードを含む論文を検索した。これらの論文を、3段階でコーディングをおこなった。1つめに、焦点をまとめたキーワードとそれぞれの論文をラベリングするオープンコーディングプロセスにしたがった。2つめに、そのキーワードを利用してさらに軸となるコーディングをおこなった。3つめに、3つのテーマとして、雇用前の配慮、雇用の配慮、雇用の成果に絞った。以下ではそれぞれのテーマについて説明していく。
1.雇用前に配慮すべきこと
家族は規模も能力も限界があるため、家族以外のメンバーの雇用はファミリービジネスの成長と拡大のために必要なことである。そこでまずは家族以外のメンバーを雇用する前の課題と配慮するべき事柄を明らかにする。具体的には、形式化、文化、報酬、家族以外の背景と魅力についてである。
その1企業ガバナンスのあり方
まず、家族以外のメンバーを雇用する前にファミリービジネスで配慮すべき重要な点は、ガバナンス構造を形式化するかどうかである。いくつかの研究ではより形式化され官僚的になることが家族以外のメンバーを包含することを容易にし、企業の業績を最適にすることを示している。しかし、形式化することはファミリービジネスの状況に左右されると主張している研究もある。また、他の研究では潜在的コストが理由で、ファミリービジネスが形式化できないことを示している。例えば、家族以外のマネジャーはより専門化したビジネスに変えるために雇用される。しかし、そのような雇用は利益が対立する可能性やマネジャーと家族の文化的不適応が生じるコストをはらんでいる。最近の研究では、家族以外のメンバーは、一般的に想定されているよりも少ないモニタリングですむとされている。なぜなら、家族以外のマネジャーは形式化の必要性の少ない向組織的な行動を示していたり、家族のオーナーと家族以外のマネジャーの目的は一般的に考えられているよりも違いがないことが明らかにされているからである。以上より、家族以外のメンバーを採用する際に、ファミリービジネスが形式化をすることで利益を得られるかどうかを強調している。形式化をすることによって、どの程度コンフリクトが生じるのかは状況によるため、利益の対立をふまえて家族以外のメンバーを採用することが望ましいという研究もある。
その2ファミリービジネスの文化
次に、ファミリービジネスの文化が家族以外のメンバーの関与にどのような影響を与えるかについて論じる。家族の価値観やビジョンがあればあるほど、ファミリービジネスは家族以外の従業員の要求に敏感になり、スチュワードシップ行動につながる配慮や懸念をする。一方で、否定的な観点から家族の企業文化を説明している研究もある。例えば、家族以外のメンバーが家族の文化を活用するのは困難である点だ。さらに、潜在的な課題として、ファミリービジネスの特異な文化ゆえに学んだスキルを他の企業に移転させることが困難な点である。これは、家族以外のメンバーへのファミリービジネスの消極的な姿勢と相まって、会社が提供する知識の幅が限られている。まとめると、ファミリービジネスではより慈善的な環境を好む個人に魅力的であるかもしれない一方で、ファミリービジネスの特異な文化は、うまく文化を活用することに不安を抱いている個人や、一般的な訓練や学習を通してキャリアを高めたい個人を妨げるかもしれないだろう。
その3報酬基準
次に、家族のオーナーと家族以外のメンバーの利益のコンフリクトを解決する方法は、報酬によるものである。ファミリービジネスでは、家族以外のメンバーを雇ったり動機づけたりするために、家族よりも報酬を支払う必要があることがある。いくつかの研究では、家族以外に支払う全体の賃金を超えるインセンティブ報酬が存在することが明らかにされている。その他の研究では、家族以外のマネジャーやCEOに関する報酬の配慮に焦点があてられている。まとめると、ファミリービジネスの家族以外のメンバーは、小規模の一般企業よりも報酬が少ない傾向があるとされているが、この結果は企業が専門化されているかどうかや立場によって異なる。したがって、ファミリービジネスでは家族以外の雇用に先立ってこれらの報酬問題を配慮することが必要であろう。
その4家族以外の背景と魅力
雇用前の配慮の最後のカテゴリは、家族以外の背景と魅力である。ブロックら(2016)の研究では、大規模な多国籍分析の結果、都市に住んでいる人や高度な教育を受けた経験のある人は、ファミリービジネスを魅力的だと感じることを明らかにしている。また、ファミリービジネスでの仕事の安全性が高まると、リスクを回避したい家族以外のメンバーにとっても魅力的となる。ファミリービジネスは安全性と安定性を望む人にとっては魅力的であるが、柔軟性や変化を重視する人にとってはそうではないと考えられている。したがって、雇用前の配慮を総括すると、ファミリービジネスでは形式化のリスクやコストを引き受けるのではなく、より非公式で家族のような環境を選ぶだろう。さらに、不十分な報酬は大規模のファミリービジネスでは懸念されないことも示されている。同様に、訓練やキャリアの機会の欠如はファミリービジネスに家族以外のメンバーが参加することを避ける理由となるだろう。
2.雇用時に配慮すべきこと その1公正性
次に、雇用の配慮の課題について、公正性と社会化の側面から論じていく。まず公正性について説明していく。組織的公正は、組織で従業員への扱いが公正であると主観的に認識することである。ファミリービジネスでは、家族と家族以外で非対称な扱いがされることがある。このような不公正が認められると、家族ではない従業員は、職務満足度や組織的責任が減少してしまう。さらに、企業内派閥が出現し、企業の結束力が弱められてしまう可能性が高まる。ただ、研究によってはファミリービジネスでの不公正の問題は想定されるよりも少ないと示唆しているものもある。例えば、家族以外の従業員は異なる規範の公正性で機能する場合、ある程度の扱いの偏りは従業員に許容されていることがある。このように、一部のファミリービジネスでは家族以外のメンバーが不当な扱いを受ける可能性がある。
その2社会化
次に、雇用の配慮の社会化について論じていく。この分野の研究は、ファミリービジネスにおける家族以外のメンバーの社会化が文化的目標と目標との整合性をどのように促進するかを検討している。社会化の共通のテーマは、ファミリービジネスでは企業価値へのコミットメントを促進するような積極的なリーダーシップの形式によって強く影響されるということである。一方でいくつかの研究では、利他主義的リーダーシップの有効性に疑問を投げかけている。例えば、利他的な家族のリーダー行動は家族の従業員を組織市民行動に従事するように促しているが、家族以外のメンバーには同じような効果がないことを示している。雇用の配慮についてまとめると、2つの対照的な側面を明らかにした。公正性の研究では、多くの説明責任や期待や要求のために、家族以外のメンバーと家族を比較して不当な扱いを受けていると認識している可能性があることを示した。社会化の研究では、ファミリービジネスの配慮のある扱いが家族以外のメンバーによりよく影響する可能性があることを示した。いずれにしても家族や家族以外のメンバーの認識に依存するものであろう。
3.ノンファミリー雇用の成果
最後に、家族以外のメンバーの雇用の成果について論じていく。特にファミリービジネスの業績と家族中心の目標に注目していく。エージェンシー理論を用いて、家族や家族以外のリーダーシップが最適なファミリービジネスの業績をもたらすかどうかを決定する条件や状況について議論する。家族以外のCEOは、ファミリービジネスの業績にポジティブな影響があると考えられている。ただ、家族以外のCEOを雇うことの利点は状況によって左右される。例えば、家族の後継者ではなく家族以外のCEOを雇っているファミリービジネスでは、通常、従業員の離職を防ぐために報酬を増やす必要がある。また、家族以外のマネジャーを含めることでファミリービジネスの業績が向上することが示されている。さらに、家族以外のマネジャーは家族のマネジャーよりも生産性が高いことを示している。要約すると、注目すべき例外の研究はほとんどないが、家族の関与やモニタリングを組み合わせて、家族以外のマネジャーが関与することはファミリービジネスの業績を改善することを示している。
次に、家族中心の目標について議論するが、多くの研究ではファミリービジネスで家族以外の人が参加することが経済的目標の優先化に関係すると主張されている一方で、家族中心の非経済的目標の達成にも関連していることが示されている。例えば、ファミリービジネスのCEOのインタビュー調査では、家族以外のCEOに対する家族の個人的な満足度は、CEOの財務パフォーマンスと同様に成功するために重要であることが明らかにされている。多くのファミリービジネスでは、家族以外のCEOとの感情的な絆を持つことが家族との関係性において重要であることを主張している。また、家族以外のメンバーは家族やファミリービジネスの評判を形成する上で不可欠であるという指摘もある。したがって、家族以外のメンバーは企業中心の業績目標と家族中心の非経済的目標の両方に貢献することが明らかにされている。
本レポートでは、家族以外のメンバーのファミリービジネスへの関与に関する利点と課題を理解することを目的に議論してきた。そして、最終的に今後の研究についても提案した。本レポートを通して、ファミリービジネスにおいて家族以外の従業員を雇用することはファミリービジネスのユニークな目標や文化を犠牲にすることなく、従業員の力を最大限に発揮するための方法を考えるための参考になるだろう。
[参考文献]
Block, J. H., Fisch, C. O., Lau, J., Obschonka, M., & Presse, A. (2016). Who prefers working in family firms? An exploratory study of individuals’ organizational preferences across 40 countries. Journal of Family Business Strategy, 7(2), 65-74.
Tabor, W., Chrisman, J. J., Madison, K., & Vardaman, J. M. (2018). Nonfamily members in family firms: A review and future research agenda. Family Business Review, 31(1), 54-79.