ファミリービジネスに最適な所有と経営のあり方は?

ファミリービジネスにおいて、どういった会社の所有や経営のスタイルが業績に繋がるかに関する知見は、多くの経営者が求めるところであろう。例えば、ファミリーメンバーのみが企業の株式を所有することが企業の業績に繋がるのか、それとも、ファミリーメンバー以外が株主として存在する方が企業の業績に繋がるのか、といった問題は依然として解決されていない。

同様に、ファミリーメンバーが経営に参画すべきなのか、日本ではあまりなじみ深いとは言い難いものの、専門の経営者を雇用すべきなのか、といった問題も存在する。これらの問題の解決の糸口として、今回の調査レポートでは、スペインにおける企業を対象とした、サクリスタンら (2011)の研究を紹介したい。具体的には、 サクリスタンらは、ファミリーメンバーによる企業の所有、経営のコントロール、そして第2の大株主の存在が、企業の業績(ROA)にどういった影響を与えるのかについて、スペインの株式市場に上場している118社の企業を対象に統計的手法を用いて分析した。

サクリスタンらは、先行研究のレビューを通じて、次の3点の仮説を導出している。

仮説1:ファミリーによる所有は企業業績に寄与する?

仮説1として、「ファミリーによる所有が大きければ大きいほど、高い企業のパフォーマンスを導く」というものである。これは、ファミリーメンバーの株式保有率が高ければ高いほど、企業が高い業績を上げることにより多くの利益を享受することができるため、企業の経営へのコミットメントが高まり、その結果として、高い企業のパフォーマンスが導かれるというものである。

仮説2:ファミリーによる経営は企業業績に寄与しない?

仮説2として、「ファミリーによる経営のコントロールは、企業のパフォーマンスを低下させる」というものである。
まず、ファミリーによる経営のコントロールとは、マネジメントやボードメンバーにファミリーメンバーが存在する。ファミリーによって経営をコントロールされている企業では、企業の所有者と経営者は同じグループ、すなわち同一ファミリーによって所有と経営が担われることになる。このような状況においては、企業が多くの小株主に所有され、彼ら株主らが自らの利益を優先することによって生じる問題(例えば、経営者は長期的な成長を検討している一方で、株主は短期的な視点や目先の利益で物事を考えるため、コンフリクトが生じるといった問題)は、回避することができる。なぜなら、ファミリーが大株主になり、かつ、ファミリーが経営をコントロールすることによって、そういった利益相反は生じないからである。

しかしながら、ファミリーによる経営のコントロールは、ファミリーが自身の利益を優先する経営を行う可能性が高まることになる。その結果、ファミリーの利益のみを優先し、企業の利益や関係者の利益が損なわれる。特に、ファミリービジネスにおいては、日常的に企業の所有者であるファミリーメンバーが、マネジャーやボードメンバーとして経営に携わることによって、よりファミリーの私的利益にコミットする傾向が強まることになる。さらに、この傾向はファミリーのトップが経営者である場合に顕著となる。

もちろん、ファミリーが経営をコントロールすることによって、企業の経営を向上させること示す研究も存在する。例えば、ファミリーメンバーが企業の執事として奉仕する場合には、業績は向上するとされている。これは、ファミリーメンバーが彼らの持ちうる能力を、企業のより良い利益に投入することによって、利益が増加するためである。

上述するような理由を支持する形で、実証研究においても、ファミリーが企業をコントロールする場合、業績を向上させる影響と低下させる影響の両方がみうけられた。しかしながら、本研究の調査対象であるスペインでは、経営の透明性は高いとは言い難いため、私的利益への傾倒が予想される。よって、本研究では、ファミリーによる経営のコントロールは、企業の業績を低下させることになる。よって、仮説2として、「ファミリーによる経営のコントロールは、企業のパフォーマンスを低下させる」とする。

仮説3:ファミリー以外の大株主の存在は企業業績に寄与する?

仮説3として、「他の大株主の存在は、企業のパフォーマンスを増加させる」というものである。
まず、ファミリービジネスとは、ファミリーメンバーによって株式の大部分を所有されており、残りの株式を少数の株主によって所有されていることが多いが、ファミリー以外の大株主が存在することもある。このファミリーメンバー以外の大株主は、残された株主への利益がファミリーによって搾取されることを防ぐ。なぜなら、そういった大株主の存在は、ファミリーによる私的利益への追求を監視することになるからである。さらに、ファミリー以外の大株主の存在は、企業にプロフェッショナリズムを与えることになり、経営の意思決定を向上させることになる。

しかしながら、その一方で、ファミリーと大株主との争いは、企業の効率やパフォーマンスに悪影響をもたらすことも示されている。また、ファミリー以外の大株主だとしても彼らの私的利益を追求する可能性もあり、企業の経営方針に影響を与えようとする場合もある。

ファミリーメンバー以外の大株主の存在が、企業の業績に影響を与える実証研究は多くとは言えないものの、存在する。例えば、ドイツにおいては、大株主の存在が企業の業績向上に寄与していること。また、ヨーロッパの企業においては、大株主はファミリーやそのメンバーの私的利益の追求を防ぐ影響が見受けられた。さらに、ファミリーによる企業の所有とパフォーマンスの関係を、大株主の存在が影響を与えることも示されている。

今論文の調査対象であるスペインにおいては、ファミリーによって経営がコントロールされている企業が多くをしめ、ファミリー以外の大株主の存在は、ファミリーによる経営における私的利益の追求を防ぐことが予想される。よって、本研究では、大株主の存在が企業の業績にポジティブな影響を与えるとする。よって、仮説3として、「他の大株主の存在は、企業のパフォーマンスを増加させる」とする。

次に、以上の3点の仮説を踏まえ、サクリスタンらが実施した調査を紹介したい。本研究では、スペインにおける株式市場に、2002年から2008年の間に上場しているファミリー企業118社を対象に定量調査を実施した。調査データの収集は、 企業が提示する財務情報などを用いた。分析に先立ち、本研究における概念の定義を行う。まず、ファミリー企業とは、創業者と血縁関係にあるメンバーによって支配されている企業をさす。また、企業のパフォーマンスを、総資本利益率(ROA)として捉える。

検証の結果:仮説2と仮説3が支持された。

分析の結果、以下の3点の結果が明らかとなった。まず、ファミリーによる株式の保有は企業のパフォーマンスに影響を与えないことが明らかとなった。よって、ファミリーによる仮説1は棄却された。次に、ファミリーのCEOやファミリーのチェアマンは、企業のパフォーマンスにネガティブな影響を与えることが明らかとなった。よって、仮説2は支持された。最後に、ファミリー以外の大株主の存在は、企業のパフォーマンスにポジティブな影響を与えることが明らかとなった。よって、仮説3は支持された。

本研究で明らかとなったことは、ファミリーによる所有は企業の業績に影響を与えるわけではなく、むしろ、ファミリーによる経営のコントロール、すなわち、会社の経営にファミリーメンバーが関与しているかどうかや、ボードメンバーにファミリーメンバーが存在しているかが、企業の業績に影響を与えることを明らかにしている。具体的には、ファミリーメンバーのマネジメントの関わりは、企業の業績を悪化させることが明らかとなった。さらに、ファミリーメンバー以外の株主の存在が、企業の業績を向上させることも明らかとなった。なお、これらの結果は、スペインの上場企業のうち、本研究の定義に基づく、ファミリービジネスに限定されることを、踏まえなければならない。

ファミリービジネスの業績向上に必要な第三者の視点。

本研究は、日本のファミリービジネスにおいて、以下の含意を持つと考えられる。まず、ファミリーメンバーのみによって、企業の株式を保有したからといって、それが業績に繋がるわけではないということである。もちろん、事業(株式)承継に関して、よりスムーズな移行ができるといった可能性は考えられる。しかしながら、業績に焦点を当てると、必ずしも結び付くわけではない。すなわち、完全な所有を行っているが故に、安泰であるとは考えてはならない。むしろ、より重要となるのは、ファミリーによる所有ではなくメンバーの経営への参画である。具体的には、ファミリービジネスだからといって、ファミリーメンバーの私的な利益のために、経営を行っているようでは、業績は悪化するだろう。こういった、経営の私的流用を防ぐための、監視役の必要性が浮かび上がる。本研究では、ファミリーメンバー以外の第2の大株主の存在を、その監視役として提示している。日本企業の文脈に照らし合わせると、外部コンサルタントや専門家、金融機関を監視役の役割として位置づけることで、経営の健全化が可能となる。

以上を踏まえれば、ファミリービジネスの所有と経営の問題は、いかに経営を私物化せずに、健全な経営を行う仕組みを整備することが要諦であると言える。

(出典) Sacristán-Navarro, M., Gómez-Ansón, S., & Cabeza-García, L. (2011). Family ownership and control, the presence of other large shareholders, and firm performance: Further evidence. Family Business Review, 24(1), 71-93