経済危機などの外部環境の変化に対して、存続の危機のリスクを減らすことはファミリービジネスをする経営者にとって最も重要な課題の1つである。今回紹介するスペインのリビラら (2016)の研究では、ファミリー(家族)のマネジメント(経営)への介入が、ファミリービジネスの失敗のリスクを軽減するのかについて研究がされている。ファミリー(家族)をファミリービジネスのマネジメントに介入させることが、財政的、社会感情的資本にどのような影響を及ぼし、結果的にファミリービジネスの存続にどのように関わるのかを実証している。

まず、本論文の問いの前提を整理していく。ビジネスの失敗は、財政的だけでなく、社会感情的資本へも影響を及ぼす。たとえ、家族が経営の権力や正当性のあるファミリービジネスを行なったとしても、その目的は異なることがある。企業家の戦略は、組織の現状を変え、組織内の確立された価値観やルールを検討する。そのため、企業家志向(entrepreneurial orientation)の観点における企業の戦略的な姿勢は、ファミリービジネスの異質性を取り入れることで家族の介入の影響をもたらすことを示唆している。これらの論理を前提にすると、家族のマネジメントへの介入は企業の失敗の可能性を減らすのか、そして、ファミリービジネスの企業家志向の影響を受けるのかという問いが生じる。

そもそも、ビジネスの失敗とは、財政的な損失だけでなく、社会的、心理的、感情的な損失も含まれるため、オーナーやマネジャーのモチベーションに大きく依存すると考えられる。そのため、企業は、個人の様々なもの、すなわち、経済的および非経済的な目標の多様性を追求することを示唆している。

また、ファミリービジネスは、失敗へのコストが一般企業と異なるため、ファミリービジネスにおいて失敗のリスクに直面した場合、一般企業とは異なる行動を示すことが考えられる。まず、ファミリービジネスは、組織との強いコミットメントがあるため、ファミリービジネスの存続が危機にさらされている場合、必要な資源を投入する。次に、株主は、長期的な持続可能性のためにまず短期的な収益性を確保し、事業の転換を求める投資を行うインセンティブを持っている。また、家族は、個人的な労働をしたり、株式投資や融資をしたり、社会的関係を構築したりすることを状況に応じて行う意志を持っているだろう。以上の前提をもとに、家族がファミリービジネスのマネジメントへの介入がどのようなビジネスの失敗へのリスクに影響するのかについての仮説の構築をしていく。

仮説1:ファミリーのマネジメントへの介入は、ビジネスの失敗の可能性を減らす。

ファミリービジネスは、一般的に、経営している家族の地位を組織内の支配的な連携として強化し、家族の権力と正当性を高める。さらに、家族の経営者の存在は、家族としての行動と仕事としての行動の重複を増やすため、企業行動が非営利な目的を重視する可能性を高める。よって、家族のマネジャーが増えると、ファミリービジネスの透明度や家族中心の目的を追求する可能性も高まると考えられる。

また、家族の経営者の知識や経験は、その業界やファミリービジネスの特有のものであり、それ以外のキャリアの可能性を妨げている。ビジネスの失敗の原因は経営陣の能力不足に起因することが多いため、失敗をすると、将来の雇用機会や資源のアクセスに対して否定的な差別を伴うことが考えられる。したがって、家族の金融資本に及ぼす失敗の影響は、家族がマネジメントに介入するとより大きくなる。

家族のマネジャーは、ファミリービジネスに対して強い感情的・社会的なつながりを感じており、相互作用を形成する。このつながりは、ビジネスの失敗をすると負の感情的な結果を増加させる。さらに、マネジャーは、個人的に事業に関わっており、長年にわたる社会的・専門的ネットワークは、株主にとって企業の命運を握る可能性がある。

一方で、アントレプレナーは、ベンチャーの個人的なリソースに投資する場合、失敗を避けたり先延ばしをしたりするため、低いパフォーマンスを許容する可能性がある。同様に、家族が積極的に経営参加している場合、ビジネスの支配的な連携として家族がふるまう。その結果、金融危機の状況で財務上の費用がかかる場合でも、家族が自らの個人的な財源を集めることで、ビジネスの失敗を避けたり延期したりすることを強いられるだろう。以上のことを簡単にまとめると、家族は、ファミリービジネスへの思い入れが強いため、経済危機の状況でファミリービジネスが危機に陥ったとしても、何としても失敗を避けたり先延ばしにしようと行動する。

仮説2:企業家志向は、マネジメントへのファミリー(家族)の介入とビジネスの失敗のリスクの関係をネガティブに調整するため、ファミリー(家族)の介入は、低い企業家志向のファミリービジネスほど失敗の可能性を減らす。

次に、アントレプレナーシップとの関係性について考えていく。家族のマネジメントへの介入とファミリービジネスの目的との関係は複雑である。家族を中心とした目的への組織的なコミットメントをつくり出すためには、マネジャーは、多様性を減らし、目標達成と達成方法に関する基本的合意を達成することで結びつきを強化する。この結びつきは、凝集性、オープンなコミュニケーション、世代間の注意によって、積極的な家族風土によって強化される。

アントレプレナーシップとは、企業が新しいビジネスチャンスを模索し、追求し、組織構造とプロセスの更新を求める姿勢である。しかしながら、ファミリービジネスでは、変化と探求の必要性において、伝統的なビジネスの慣行から脱却することに抵抗感を持つことがある。特に、マネジメントへの家族の介入が高まるにつれて、組織内が感情的に、より硬直化してしまう可能性がある。したがって、企業家的な家族のマネジャーは、繊細なバランスを達成しなければならない。さもなくば、業績と家族の目的との間にトレードオフが発生し、このトレードオフによって、コンフリクトが発生し、家族中心の目的へのコミットメントの構築を阻害する可能性ある。その結果、企業家志向は、特に家族が他の個人的な目標を犠牲にしなければならない場合、ファミリービジネスの存続を優先させることに対して同意する可能性を減らすかもしれない。

図1:予測される累積的な失敗のハザードとマネジメントへの家族の介入の影響:企業家志向(EO)の調整役割

以上の仮説を検証するために、2006年11月から2013年12月の技術産業を経営するスペインの369社の製造企業を対象に検証をおこなった。スペイン経済は、当時、経済危機に直面しており、調査対象の企業へも深刻な悪影響を及ぼした。

検証結果は、図1の通りである。両仮説が支持された。ファミリーのマネジメントへの介入は、ファミリービジネスの失敗の可能性を減らす。また、企業家志向は、マネジメントへのファミリー(家族)の介入とビジネスの失敗のリスクの関係をネガティブに調整するため、ファミリーの介入は、低い企業家志向の場合、ファミリービジネスの失敗の可能性を減らしていることが明らかになった。

まとめると、本研究では、どのように経済危機の状況に対して、ビジネスの存続機会を改善させるのかということに対して、より理解を進めるためにファミリービジネスのマネジャーやオーナーへ実務的な意義があると言えよう。マネジメントにおける家族の介入が、低い企業家志向においてビジネスの失敗のリスクを減らすことを示した。しかしながら、実務家は、特に企業家志向がファミリービジネスのための業績を高める戦略である場合は、ファミリービジネスの存続には、多くの財務コストがかかることを考慮しなければならない。企業家志向が高い場合、家族は潜在的なコンフリクトの対応をしなければならないため、マネジメントへの介入による存続の優位性が減ってしまう。したがって、外部のマネジャーの介入をするためにファミリービジネスをオープンにすることが合理的な適応と考えられる。しかしながら、これは家族の社会感情的資本を考えると必ずしも受け容れられることではない。ファミリービジネスと家族は、企業家志向が必要とする挑戦やコンフリクトをマネジメントするために準備をしていくことが大切である。

以上のように、繰り返しになるが、家族のマネジャーは、家族とファミリービジネスのあらゆる資本の繊細なバランスを考慮しなければならない。それらのバランスを取る上で、コンフリクトは避けられないかもしれない。例えば、家族の中でも変化を志向する人とそうでない人との対立も考えられる。重要なのは、環境変化に対応する上で、組織内のコンフリクトを避けるだけではなく、どう対処していくのかを考えていくことだろう。本論文は、その示唆を与えてくれている。