先日、りそな銀行・近畿大阪銀行主催のセミナー『ベンチャー型事業承継のススメ』でベンチャー型事業承継がどのようなもので、それを成功させるために5つのポイントについて、説明させて頂きました。その内容を要約してお伝えします。

そもそもベンチャー型事業承継とは?

ベンチャー型事業承継とは、若手後継者が先代から受け継ぐ有形・無形の経営資源をベースにリスクや障壁に果敢に立ち向かいながら新規事業、業態転換、新市場参入など新たな領域に挑戦することで永続的な経営をめざし社会に新たな価値を生み出すことを意味します。

以前は第二創業、経営革新とも言われていましたが、そのワードにはワクワク感がありません。そこで、ゼロから立ち上げる起業家「ベンチャー」でもなく、先代と同じスタイルで同じ商売をする「事業承継」でもない「ベンチャー型事業承継」というなんか後継者(アトツギ)から見ても魅力的なワクワク感のある言葉が産み出されました。

その「ベンチャー型事業承継」という言葉も近畿経済産業局や今期の中小企業庁(経済産業省)発表の予算資料にも登場するようになりました。

ベンチャー型事業承継の成功のポイント

現在、ベンチャー型事業承継という言葉はスポットライトを受け、華々しくデビューし、同時にそのベンチャー型事業承継を体現したような老舗企業の跡取りによる新会社の設立など、成功事例も数多く出てきており、日経新聞でも報道されるようになりました。

しかし、ベンチャー型事業承継をどのように成功させるのかについては、あまり多くは語られていません。恐らくそのような視点で支援している機関がないためだと思っています。

弊社はファミリービジネスに特化したコンサルティング会社であり、会社創業前からファミリービジネスにおける事業承継や新規事業開発を支援してきていますが、それらの経験からベンチャー型事業承継を成功させるポイントを下記の5つであると考えています。

成功ポイント1 企業の存続力の発揮(「存続力」こそファミリービジネスの競争力)

日本は世界的に見て最も長寿企業が多い国です。例えば、100年を超える企業数は33,069社(商工リサーチ)となっており、二番手のドイツよりも倍近くの企業数を誇っています。これは企業の存続力、つまり、企業を残したいという強い気持ちがそうさせてきたのではないかという仮説です。もちろん、日本は島国で戦争が少なかった、イエ制度が支えてきたという学術的な説明はあるのですが、現在、ベンチャー型事業承継に成功した企業のアトツギのコメントとして、「俺の代でじいさんが苦労して作った会社をつぶすわけにはいかない」、新規の研究開発(試行錯誤)がうまくいなかっても「ここで辞めるわけにはいかない、いや、辞めることができない」という粘りがあります。つまり、競争力があるから存続したのではなく、諦めずに継続させる(会社を生き続かせる)という強い気持ちがあって、結果として会社が存続し、競争力が持てたということです。そして、そのような強い気持ちを持っているのは、何よりもアトツギではないか、つまり、そのアトツギを主役するということが大切なこと(大前提)になります。

創業者は案外自分で作った会社なので、自分の責任で会社を辞める、譲渡するということもあるようですが、それを引き継いだ後継者は何とか子供や孫の代まで続かせたいと思われています。なんせ、子供のとき、育ててもらったのは、この会社だから、その恩返しのために業績が悪化した企業に後継者が戻るということも多いようです。

ポイント2 ファミリービジネスならではの課題への対応

ファミリービジネスには一般的な企業(上場企業など)で発生するような経営上の問題に加えて、株式の承継や家族問題など、様々な問題が発生します。弊社も掲げておりますが、経営分野だけではなく、所有分野、家族分野の課題に対応していく必要があります。セミナーではそのための方法論として、例えば、3分野(経営、所有、家族)での課題抽出方法、家族分野ではジェノグラム分析(家系図と、そこに人間関係の見える化する手法)、三円一体モデル(経営、所有、家族分野での中長期計画)の重要性などについて説明させて頂きました。

ポイント3 家業の有形無形の経営資源の見える化

一般的に経営資源を棚卸しする際に、ファミリービジネスに関わらず、自社の経営資源に気付かない会社も多いものです。ベンチャー型事業承継の特長として、経営資源の棚卸しについて、対象が大きく3つあります。1つ目は一般的な経営資源である設備や技術などです。2つ目は単なるベンチャーにはない先代から脈々と引き継がれてきたモノです。例えば、信用(のれん)、内部留保(カネ)です。最後の3つ目がベンチャー型事業承継らしいものですが、それは後継者(アトツギ)が持つモノ。これまで学んできた知識や前職での経験が大きくなります。よくある組合せとして、老舗としての資源(モノ、技術)と後継者のITスキルなどを掛け算して、新しい事業を創出するベンチャー型事業承継に取り組む企業が多くなっています。セミナーではこれら3つの分野で経営資源の見える化について方法論について説明させて頂きました。

ポイント4 未来思考・強制発想による新しいビジネスの創造

これはベンチャー型事業承継に関わらず、あらゆる新規事業創出に関わることですが、新規事業は千三つ(1,000個に3つぐらいしか成功しない)ですが、少しでも成功確率を上げることはできます。そのポイントは今後成長する分野(例えば、ヘルスケア、電気自動車、IOT、省力化など)でアイディアを出すことです。そのような成長分野を数十分野設定し、その分野毎にポイント3で見える化した経営資源で何かサービスを提供できないのかを強制的にアイディアを出します。ここでは強制的にアイディアを出すということが重要です。イノベーションを起こすには、ある程度の制限のある状態で行った方が良いと言われています。つまり、条件がなく、何でも考えてやってくださいというよりも、分野と使う経営資源を絞って、新しい事業アイディアを考えた方がこれまでにない事業が発想しやすいということです。その他、事業コンセプトを1表で俯瞰できるアイディアシートなど、事業アイディアを出すための方法論についても説明させて頂きました。

ポイント5 前向きに最後までやりきる力

日本型ファミリービジネスの成長モデルとして、後継者(アトツギ)による存続への強い意志から始まり、選択と集中によって経営資源を捻出し、アメーバ式に事業を拡大し、その社歴と共に社会から使用を得て、さらに身の丈にあった経営をしていきます。危機が生じた際には、全社員が一丸となって取り組む力があります。それがファミリービジネスの良さで、確かに派手さはないのですが地続きのイノベーションを起こすことができるものと思います。

ベンチャー型事業承継の成功のポイントはいかがだったでしょうか。是非皆様の会社でも前向きな事業承継(経営承継)としてベンチャー型事業承継に取り組まれたらいかがでしょうか。みなさまの活動にも是非お役立て頂ければと思います。

また、地方銀行さん、商工会議所さんからの要望を受けて、ベンチャー型事業承継を推進するためのエッセンスを盛り込んだ取引先様・会員様向けの3回程度のセミナーも企画し、実際に提供させて頂いております。そのような企画についてのお問合せは下記のお問合せフォームよりお願いします。

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