事業承継に最も適したアドバイザーとは?
ファミリービジネスの創業者や経営者にとって、事業承継に関する不安を誰に相談すればよいかは、事業承継それ自体と同等の悩みといえるだろう。例えば、事業承継の問題は、自社の専属の会計士や弁護士に相談すれば良いのか、それともコンサルタントに相談すれば良いのだろう。さらには、そういった専門家と、どのような関係性を構築すれば、スムーズな事業承継が可能となるのだろうか。今回、事業承継に影響を与えるアドバイザーの影響について検討しているミッチェルらの論文 (2015)を紹介することで、事業承継を成功に収めるための、専門家との関係について検討する。
本研究は、事業承継の過程とアドバイザーの関係についての理論研究となる。具体的には、事業承継の過程として、きっかけの段階・準備の段階・選抜の段階・育成の段階の4段階において、信頼されたアドバイザーが創業者や現経営者から後継者へのバトンタッチにどのような影響を与えるか検討した。ここでの信頼されたアドバイザーとは、ファミリービジネスのメンバーにとって、最も頼りになるビジネスへの助言を行うことができる外部資源を指し、ファミリーメンバーと契約が結ばれた弁護士や会計士、コンサルタントなどを指す。また、きっかけの段階とは、創業者や現経営者が事業承継の必要性について気付いた段階となる。準備の段階とは、事業承継における目標やガイドライン、さらには事業承継のタイムスケジュールを設定する段階となる。選抜の段階とは、選抜における基準の定義や後継者の候補の育成、さらには後継者の合意の獲得する段階となる。育成の段階とは、後継者に適切な教育を施す段階となる。
本研究では、これらの事業承継の過程とアドバイザーとの関係を、特にエージェンシー理論におけるエージェンシーコストに着目することで検討する。ここでのエージェンシーコストとは、利害の不一致によって発生する、また、その利害の不一致の解消によって生じる費用を指す。つまり、事業承継において、創業者や現経営者と後継者の意図や利害が異なることによって生じてしまう衝突や、その意図や利害のすり合わせに関わる費用を指す。ミッチェルら(2015)はレビューを通じ、以下の12点の命題を導いた。
【きっかけの段階】
命題1:きっかけの段階において、信頼されたアドバイザーは、事業承継に関わる嫌悪感への対処や公式的な事業承継の開始、さらにはステークホルダーとの自発的なコミュニケーションを通じて、利害関係者間における衝突を緩和する。よって、アドバイザーは、情報の非対称性を解消し、目標を達成するための関係性を向上させる。
命題2:しかしながら、きっかけの段階において、創業者や現経営者とアドバイザーの間に目標を達成するための関係性が結ばれていない場合、信頼されたアドバイザーの参画は創業者や現経営者に対して、彼らの事業承継への準備が出来ていないのにも関わらず意思決定を強いたり、彼らの不快感を増幅させたり、さらには敵対的な反応を引き出すことになる。すなわち、目標の相違と情報の非対称性は、エージェンシーコストを増加させることになる。
【準備の段階】
命題3:準備の段階において、信頼されたアドバイザーは、事業承継の過程やそれに関わる知識を提供すると共に、明確なルールやガイドラインやタイムスケジュールを提示することによって、利害関係者間における衝突を緩和する。よって、アドバイザーは、情報の非対称性を解消し、目標を達成するための関係性を向上させる。
命題4:しかしながら、準備の段階において、創業者や現職の現経営者が事実を過小評価するが故に、アドバイザーと十分に情報が共有されず、心理的な抵抗より目標が異なっている場合、信頼されたアドバイザーが参画することは彼らにとって好ましくない提案を行うようになる。さらには、目標の相違によって生じる問題も増え、情報の非対称性やエージェンシーコストの増加が生じる。
【選抜の段階】
命題5:選抜の段階において、信頼されたアドバイザーは、創業者や現経営者・ファミリーの抱える不安の解消、後継者となる候補者の育成、利害関係者間の情報共有を通じて利害関係者間の衝突を解消する。よって、アドバイザーは、情報の非対称性を解消し、目標を達成するための関係性を向上させる。
命題6:しかしながら、選抜の段階において、創業者や現経営者・後継者・アドバイザーの間に、企業に関する詳細な情報が共有されていない場合や、アドバイザーが創業者や現経営者と後継者の間に適切な関与ができていない場合において、信頼されたアドバイザーの参画は、後継者にとって好ましくない選択をすると共に、後継者に対して敵対的な感情や不快感を醸成することになる。さらには、目標の相違によって生じる問題も増え、情報の非対称性やエージェンシーコストの増加が生じる。
【育成の段階】
命題7:育成の段階において、信頼されたアドバイザイーは、正確なトレーニングの提供、ビジネスへの後継者の参画の支援、後継者の能力の評価、後継者へのコーチングを通じて利害関係者間の衝突を解消する。よって、アドバイザーは、情報の非対称性を解消し、目標を達成するための関係性を向上させる。
命題8:しかしながら、育成の段階において、創業者や現経営者と後継者とアドバイザーの間で、十分な目標の共有が行われていない場合、例えば、適切な教育方法について合意が出来ていない場合や、後継者自身に既にアドバイザーが存在する場合において、信頼されたアドバイザーの参画は非効率な育成となる。さらには、目標の相違によって生じる問題も増え、情報の非対称性やエージェンシーコストの増加が生じる。
【創業者や現経営者・後継者とアドバイザーの関係性】
命題9:創業者や現経営者に対して平等に知識を提示し、両者の目標を達成することを意識し、利害関係者間において生じるエージェンシーコストを出来る限り減少させようとすると、偏ることのないバランスのとれたアドバイザーの存在は、最も効率的かつスムーズで、そして満足のゆく、事業承継のプロセスとなる。
命題10:しかしながら、信頼されたアドバイザーが創業者や現経営者側に偏っている場合、例えば、長期的な関係性の構築、記憶の共有、さらには近い年齢の場合において、アドバイザーは創業者や現経営者と後継者の間の情報の非対称性や目標の相違を解消するとなく、むしろ、それらの問題を増加されることになる。さらには、非常に大きく信頼を阻害すると共に、利害関係者間の衝突を招くことになる。
命題11:しかしながら、信頼されたアドバイザーが後継者側に偏っている場合、例えば、組織の急進的な変革や将来の役割に認知、さらには近い年齢の場合において、アドバイザーは創業者や現経営者と後継者の間の情報の非対称性や目標の相違を解消するとなく、むしろ、それらの問題を増加されることになる。さらには、非常に大きく信頼を阻害すると共に、利害関係者間の衝突を招くことになる。
命題12:信頼されたアドバイザーが2名上参画する場合、既に存在する情報の非対称性や、創業者や現経営者と後継者の間の目標の相違をより強固なものにする。よって、2名以上の参画は、エージェンシーコストをより増加させることになる。すなわち、複数のアドバイザーの存在は堅牢だが非効率的となる。
事業承継を成功させるアドバイザーとしては、自社のファミリービジネスとの関係性が深く、創業者や現経営者よりも若く、後継者とも関係が構築できるアドバイザーが最も有用。
以上のミッチェルら (2015)が提示した命題を踏まえれば、どのようなコンサルタントが適切で、どのような関係性を構築すればよいかが明らかとなる。まず、創業者や現経営者と後継者の両者に支持されるコンサルタントを選択する必要がある。どちらかにのみ気に入られているコンサルタントを選択する場合、経営者と後継者との橋渡しをするはずが、かえって両者の関係に亀裂を生じさせる可能性がある。次に、信頼できるコンサルタントを見出すことができた場合、企業やビジネスに関わる情報は出来る限りもれなく伝える必要がある。どちらかが情報や利害を隠蔽することは、結果として両者の利益を損なうのみならず、ファミリービジネスの成長を阻害しかねない。最後に、信頼できるコンサルタントを含め、現経営者と後継者は十分なコミュニケーションを取る必要がある。コンサルタントの存在に甘んじることなく、お互いの利害について腹を割って話す必要がある。
(出典) Michel, A., & Kammerlander, N. (2015). Trusted advisors in a family business’s succession-planning process—An agency perspective. Journal of Family Business Strategy, 6(1), 45-57.