ファミリービジネスの経営者にとって、どういった経営者が利益をもたらすのかについての知見は、誰しもが求めているものの一つであろう。そこで今回、企業の業績に影響を与える要因として、ファミリーのメンバーのビジネスへの関与に注目した研究として、ブランコら (2016)の研究を紹介したい。ブランコらは、ファミリーのメンバーがビジネスに対して積極的に関わっていく場合、業績にどういった影響を与えるのかについて、世代の違いやガバナンスとの関係に焦点をあて検討している。以下、詳しい研究内容について論じていく。

ブランコら(2016)では、積極的なファミリービジネスのオーナーと、消極的なファミリービジネスのオーナーのコンフリクトが、ファミリービジネスの業績に与える影響について検討している。ここでの積極的なファミリーオーナーとは、自らが経営に携わっている人物であり、消極的なファミリーオーナーとは、そういった経営活動に従事していな人物を指す。また、本研究では調査対象として、スペインにおける非上場のファミリービジネスを対象としている。結論を先取りすれば、積極的なファミリービジネスのオーナーのもと、ファミリービジネスのガバナンスのシステムが機能する場合、ビジネスの業績が向上することが明らかとなった。さらに、業績に対するポジティブな影響は、世代を継承をすればするほど強まることが明らかとなった。すなわち、ファミリーのメンバーによる経営とガバナンスのシステムの関係は、世代を経れば経るほど、業績向上に影響を与えることが示されている。以下、より具体的に述べていく。

仮説1: ファミリーメンバーによって所有されているファミリー企業において、積極的なファミリービジネスのオーナーと企業の業績の間には、ポジティブな関係がある。

まず、積極的なファミリービジネスのオーナーと、消極的なファミリービジネスのオーナーが、企業の業績にどういった影響を与えるのかを確認する。先行研究では、エージェンシー理論を用い、それぞれの個人には各々の意図を持つことが示されている。そのような意図は、積極的にビジネスに参画しているオーナーであれば、ファミリーやそのビジネスへの貢献を意識するが、消極的なオーナーであれば、自らの利益に基づいて行動することになる。であるならば、積極的に関与しているオーナーであればあるほど、業績に貢献するであろうと考えることが可能となる。

仮説2a:ファミリーメンバーによって所有されているファミリー企業において、ファミリーメンバーの直接の統治と企業の業績の間には、ポジティブな関係がある。

仮説2b:ファミリーメンバーによって所有されているファミリー企業において、取締役会の存在と企業の業績の間には、ポジティブな関係がある。

仮説2c:ファミリーメンバーによって所有されているファミリー企業において、ファミリーにおけるガバナンス(特にファミリーでの会議や世代継承の計画、家訓家憲など)と企業の業績の間には、ポジティブな関係がある。

次に、 ブランコらは、積極的なファミリービジネスのオーナーと企業の業績の間に影響を与える要因について検討している。まず、本研究では調整要因として組織のガバナンスを取り上げる。ここでのガバナンスとは、ファミリーメンバーによる直接の統治や、取締役会の存在、ファミリーに特化したガバナンスである。ファミリーに特化したガバナンスとは、ファミリーでの会議や世代継承の計画、家訓家憲を指す。先行研究では、これらのガバナンスが、企業の業績向上に寄与することが示されている。

仮説3: ファミリーメンバーによって所有されているファミリー企業において、積極的なファミリービジネスのオーナーと企業の業績の間のポジティブな関係は、世代を継承すればするほど強まる。

次に、ファミリービジネスのオーナーと企業の業績の間の関係に影響を与える要因として、世代の影響を取り上げる。これは、世代を経れば経るほど、ファミリーのメンバーは多様な興味関心を抱くことになるとともに、その興味関心に従った経営を行うようになるとされている。すなわち、経営に無関心であり、私的な利益にのみ注目する後継者は、創業者に比べて、そういった自身の関心に注力してしまうのである。であるならば、ファミリービジネスに強い関心を持つ、2代目以降の積極的なファミリービジネスのオーナーは、よりビジネスに資する行動を取ることが想定される。

仮説4a: ファミリーメンバーによって所有されているファミリー企業において、ファミリーメンバーの直接の統治と企業の業績の間におけるポジティブな関係は、世代を継承すればするほど強まる。

仮説4b:ファミリーメンバーによって所有されているファミリー企業において、取締役会の存在と企業の業績の間のポジティブな関係は、世代を継承すればするほど強まる。

仮説4c:ファミリーメンバーによって所有されているファミリー企業において、ファミリーにおけるガバナンス(特にファミリーでの会議や世代継承の計画、家訓家憲など)と企業の業績の間のポジティブな関係は、世代を継承すればするほど強まる。

上述の仮説3を踏まえれば、積極的なファミリービジネスのオーナーが存在する企業における、企業の業績とガバナンスの関係は、世代の影響を受けることが想定される。すなわち、ガバナンスが企業の業績向上に与えるポジティブな影響は、世代継承を行えば行うほど強くなるというものである。

本研究は、以上の8点の仮説を導出している。この仮説を検証するため、本研究では調査対象として、スペインにおける非上場のファミリービジネスの207社を対象に質問紙調査を実施。統計的分析を通じた仮説の検証を行った。その結果、支持された仮説は、仮説1、仮説2c、仮説3、仮説4c、仮説4aとなる。なお、仮説3においては、3世代以降においてのみ、その影響が示されている。また、仮説4aにおいては、2世代以降においてのみ、その影響が認められている。

調査結果を踏まえれば、積極的なファミリーメンバーによるビジネスの所有が進む場合、それが創業時においては業績を悪化することが示されたものの、2代目以降となると業績の向上が示された。これは、創業者は経営から去ろうとすることに抵抗を示す一方で、2代目以降の経営者は、より仕事としてファミリービジネスの維持や存続に動機づけられ、業績向上に寄与するからである。すなわち、メンバーが積極的にビジネスに関与する場合において、世代を継承すればするほど、ファミリーの経営への参画と企業の業績の関係は強まることが明らかとなった。

また、ファミリービジネス内におけるガバナンスは、2代目以降の場合、ファミリーのメンバーによるビジネスへの参画と企業の業績の関係を、より強めることが示された。すなわち、世代継承を経た場合、ガバナンスのシステムが存在することが、ファミリーメンバーによる積極的なビジネスへの取り組みをサポートすることが示された。一方、創業時においては、創業者の影響が強いため、ガバナンスがもたらす影響は見受けられなかった。

 

本研究では、積極的なファミリーオーナーが、直接の経営に参画すると共に、取締役会が存在し、ファミリービジネスのガバナンスのシステムが機能する場合、ビジネスの業績が向上することが明らかとなった、さらに、これらの業績に対するポジティブな影響は、世代を継承すればするほど、強まることが明らかとなった。以上を踏まえ、考察に移りたい。本研究を通じ、世代継承を控えた企業や、世代継承を経た企業にとって、ファミリーメンバーが積極的に経営に参画することは自社の業績に資するということが示された。そして、そのような企業において、ガバナンスの仕組みづくりを行うことで、さらなる業績向上に繋がることが明らかとなった。つまり、本研究では世代継承をきっかけとして、創業者のカリスマ性に基づく経営から、ファミリーメンバーが経営に参画していくチーム型経営の重要性が示されたといえる。また、そのようなチーム型経営において、チームを支えるルール、すなわちガバナンスの重要性が指摘されている。具体的には、ファミリーでの会議や、明示化された世代継承の計画、さらには家訓や家憲といったものが、ファミリー全体での経営活動をサポートするのである。以上を踏まえれば、ファミリービジネスの業績向上を目指す上では、スムーズな世代継承をベースにした、ファミリーの積極的なビジネスへの関与と、それをサポートする仕組みづくりが不可欠であるといえる。