兄弟姉妹を上手に経営参画させるために必要なこととは?

子宝に恵まれ、子どもたちが増えることは幸せなことであるが、ファミリービジネスの経営者にとっては悩みの種にもなるだろう。特に、多くの兄弟姉妹を抱える経営者においては、子どもたちをいかにして会社に参画させればいいか非常に頭を悩ますことになる。なぜなら、兄弟姉妹間の衝突は、事業承継の失敗の大きな原因の一つとなるからである。以上を踏まえ、子どもたちがいかにしてスムーズに経営に参画できるのかについて、兄弟姉妹間や会社とのコンフリクトに着目しながら検討している研究を紹介する。

ハービーら(1994)は、後継者となる子どもたち(兄弟姉妹)が経営に参画する際に生じるコンフリクトに着目し、いかにして事業承継を成功に収めることができるかについて、理論的に検討している。まず、ハービーらは、後継者となる兄弟がファミリービジネスに参画する最適なタイミングはファミリーごとに大きく異なるとしながらも、事業承継の計画としての参画戦略は、兄弟が幼少期の頃から始めるべきであると述べている。例えば、彼らは先行研究を引用しながら、経営者が30代から40代の年齢のころから、子どもたちの参画について計画しはじめることが、経営者が50代や60代において計画しはじめるよりも、事業承継が成功しやすいことを指摘している。

このように、後継者となる子どもたちの経営への参画について検討することの重要性を踏まえ、ハービーらは次の5点のプロセスを提示している。
第1に、組織とファミリーのライフサイクルの評価
第2に、キャリアとファミリーのライフサイクルにおける調整
第3に、参画のタイミングの評価
第4に、各兄弟姉妹の参画のスケジュールの作成
第5に、参画に関しての不測の事態の分析 である。 以下、それぞれについて詳述する。

子どもたちの参画に関するプロセスの第1段階は、組織とファミリーのライフサイクルの評価である。この段階では、兄弟姉妹がプロセスをいかにして経ていくかについて予測することになる。具体的には、会社発展のライフサイクルを踏まえ、今後、どういったことが求められるかについて検討すると共に、その要求と兄弟姉妹自身のライフサイクルとの関係を検討するというものである。すなわち、これらの検討を通じ、これから生じるであろう出来事を予測することが必要となるのである。例えば、5年後に国内の生産拠点の増強、10年後には海外への進出を検討している企業であれば、英語の運用能力や海外のローカル企業とのやりとりに関するノウハウの構築が求められることが明らかとなる。

プロセスの第2段階は、キャリアとファミリーのライフサイクルにおける調整である。この段階では、兄弟姉妹の参画プロセスのタイムテーブルについて検討することと、どのようなコンフリクトが生じるかについて検討することになる。具体的には、まず兄弟姉妹間のコンフリクトや、第一子が娘の場合に生じやすい、いわゆる伝統的な問題などを検討し、どのようなコンフリクトが生じるかについて明らかにする。その上で、会社が将来的に要求されるだろうマネジメント能力について明らかにする。これらを通じ、コンフリクトを回避しながらも、会社のニーズに応えることが可能な参画プロセスを策定する。例えば、年齢の近い兄弟が生まれた場合、社内における実力も近しいものになるだろう。そのような場合において、長男という理由のみで長男を登用し、次男には十分やキャリアパスを用意できない場合、何らかのコンフリクトが想定される。さらに。次男の方が長男よりも、海外での活躍が見込めるような状況だとすると、ますます問題は難しくなるだろう。このような起こり得るコンフリクトを想定しながら、兄弟姉妹の教育と、兄弟姉妹のファミリービジネスへの参画を検討することが求められる。

プロセスの第3段階は、参画のタイミングの評価である。この段階では、参画する子どもたちとファミリービジネスの間において生じるだろうコンフリクトについて検討するものである。具体的には、「仮に・・・」という想定をすることでコンフリクトを想定し、また参画に際して要求される追加的な教育についても検討する。すなわち、兄弟姉妹と会社とのコンフリクトを検討し、その回避を目指すのである。例えば、海外進出を検討している場合に、英語能力が高い兄弟姉妹の参画は、社内にとってポジティブな印象を持たれコンフリクトは少ないだろう。しかしながら、会社の経営が厳しいような状況において、兄弟姉妹を積極的に登用していくことは、社内においてコンフリクトが生じる可能性がある。また、社内で古参の従業員が十分な実績を出している状況における参画なども、既存の従業員のモティベーションに影響を与えかねないだろう。こういったコンフリクトを想定しながら、参画のタイミングを検討することが求められる。

プロセスの第4段階は、各兄弟姉妹の参画のスケジュールの作成である。この段階では、これまで検討してきた参画のプロセスについて、現実的な視点より評価する。具体的には、子どもたちのファミリービジネスへの参画に対する両親による評価であり、両親の感情面や感覚面を含め検討を行う。ここでの評価を通じ、兄弟姉妹のファミリービジネスへの参画や、参画の程度について決定する。これまでの3つの段階において、会社としてのライフサイクル、ファミリーとしてのライフサイクル、それらを踏まえたよりコンフリクトが少なくなるであろう兄弟姉妹の参画のタイミングを検討したとしても、必ずしもその参画が成功するとは限らない。より兄弟姉妹を身近で理解しながら、さらには社内の状況や事業の今後の発展について深い理解がある両親こそが、現実的な観点からそのタイミングを判断することが重要となる。

プロセスの最後の第5段階は、参画に関しての不測の事態の分析である。この段階では、改めて、兄弟が会社に参画した際に生じる可能性があるコンフリクトについて検討する。具体的には、兄弟のパーソナリティや、彼らの専門性、さらには彼らが他の従業員に与える影響について検討することで、意図しない機能不全を防ごうとするのである。

兄弟姉妹の経営参画に向けた5つのポイント

以上のハービーら(1994)の研究を踏まえれば、複数の子どもが自社に参画する際に生じるであろう問題は、次の5点を意識することによって、回避することが可能となる。

まず、 1つ目として、子どもたちの参画プロセスを俯瞰的に想定するというものである。子どもたちが自社に入社することを具体的にイメージすることによって、今後取り組むべきことや検討しなければならないことが浮かび上がり、コンフリクトの回避に役立つ。

次に、2つ目として、兄弟姉妹間のコンフリクトの可能性を意識し、解消するというものである。複数人の子どもたちによる事業承継においては、誰が会社を継承するのかについて衝突が起こりかねない。早い段階から、そのコンフリクトを防ぐ家庭内の教育が求められる。

3つ目として、会社に参画する子どもたちと、既存の従業員の関係におけるコンフリクトを検討するというものである。兄弟姉妹間のコンフリクトを回避することができたとしても、従業員との間にコンフリクトが生じる可能性は十分にある。あらかじめ、様々なコンフリクトを想定することによって、素早い対応や事前の準備が可能となる。

4つ目として、親として子どもたちの状況や参画の仕方について検討するというものである。親として、各兄弟姉妹に不足する能力があると感じれば、何らかの追加的教育を実施することがコンフリクトの回避つながるだろう。また、親は自社についての理解あるため、どのタイミングで、どの程度参画することがスムーズな事業承継につながるか、判断することができる。よって、両親から後継者となる子どもたちを評価することで、現実的な視点からのコンフリクト解消を目指す。

最後に、5つ目として、改めて生じるリスクを検討するというものである。兄弟姉妹の性格やそれまでの専門性を踏まえ、そういった子どもたちが社内にどういった影響を与えるかを検討することで、不測の事態に陥ることを回避することが可能となる。

つまり、子どもたちの自社への参画は、非常に綿密な下準備が必要になるということである。当たり前のことであるが、あらかじめ起こりえる問題を検討しながら、先回りして問題を生じさせない、生じたとしても早期に解決することが、事業承継の成功へと繋がるのである。しかし、このような当たり前な対策が取られていないファミリービジネスが多いような気がするので、ぜひ、これを機会に改めて、自社の事業承継のあり方について検討して頂きたい。