本レポートでは、経営学の重鎮であられる加護野忠雄先生の論考に基づき、ファミリービジネスと文化の関係、ファミリービジネスのメリット・デメリットについて議論していく。

日本ではファミリービジネスはネガティブに見られる!?

加護野 (2008)によると、「日本の経営学者の間ではファミリービジネスあるいは同族会社はマイナーな存在と見られてきた」。しかしながら、日本の中小企業のほとんどはファミリービジネスである。さらに、ファミリービジネスは他のビジネス形態といくつかの違いが見られ、メリットがある。日本のファミリービジネスといえばどのようなイメージを抱くだろうか。ファミリービジネスというと、人によってはネガティブなイメージを持たれるかもしれない。例えば、「企業不祥事が起こると、同族企業の閉鎖的な経営が不祥事の温床だ」と考えるかもしれない。しかし、日本のファミリービジネスは本当に閉鎖的なのだろうか。アメリカのファミリービジネスの研究家であるランデスは、日本のファミリービジネスの開放的な特徴に着目している。ファミリービジネスのなかには、直系の男子だけを後継者とみなして、他の人を部外者として扱う場合も多い。ただ、トヨタ自動車のようなファミリービジネスは、血統に関しては寛大な文化があるという。このように、日本の「イエ」は欧米よりも開放的であり、新しい人材を組織に入れながら存続していると考えられる。

日本のファミリービジネスを支える「イエ」制度

さらに、日本企業は、他国と比べて長寿企業が多い。加護野は、その原因の1つを日本的な家族の制度と文化であると主張している。その内容は、日本の「イエ」は西洋の家族よりも広く抽象的であるという。すなわち、日本のファミリービジネスでは創業者の家族よりも企業そのものをさしていると考えられる。以上のように、家族の制度や文化が背景に考えると、日本のファミリービジネスは他国と比べて特殊であることが伺える。

では、ファミリービジネスのメリットはどのようなものがあるだろうか。ファミリービジネスがいい結果につながることは多い。加護野が注目しているのは、日本のファミリービジネスは、長期的なコミットメントをもっているという点である。

例えば、「明治期に竹中工務店は上場のチャンスがあったが、上場を回避している」。これは、上場してしまうと、株主が短期的な成果の還元を求めてしまい、経営が左右されてしまうことを懸念したからである。家族が企業を守る防波堤の役割をはたしていると加護野は主張している。つまり、家族が企業の意思決定に参加することによって経営の安定化が見込めるということである。なぜなら、家族出身の経営者は、内部昇進の経営者よりも、非連続的な変化を導入しやすいからである。内部昇進の経営者は、前任者や同僚への配慮が必要であるが、家族出身の経営者はそれらの配慮が必要ない。

本レポートでは、加護野 (2008)に基づいてファミリービジネスと日本の文化の関係と、ファミリービジネスのメリットについて議論した。

本稿でも触れられている通り、日本のファミリービジネスにおいて、家制度との関係性は切っても切れない。家制度自体は戦後の憲法改正により、戸籍制度への改変されたわけだが、その過程で家族自体のあり方や、家族と家業とのあり方も変わったと言える。

強いファミリービジネスを構築していくには、家長である経営者やその後継者となるご子息の志や考え方が非常に重要になるわけだが、過去は家族として守るべき家訓などが定められており、後継者が経営者として足る知見などを身につける仕組みがあったように思う。現在はそのような仕組みが薄らいできたために、後継者不足などの問題が生じているように思わざるを得ない。

(出典)加護野忠男. (2008). 経営学とファミリービジネス研究. 学術の動向, 13(1), 68-70.