創業者やその企業にとって、後継者を誰にするかということや、後継者をどのように育成するかということは非常に大きな課題である。本レポートでは、増加する親族外承継(第三者承継)において、どのように後継者を育成するのかを課題とし、その事前準備としての後継者育成計画(サクセッションプラン)の重要性を明らかにしたい。また、世代交代そのものが経営においてはイノベーションであるが、そのイノベーションが先代の事業の踏襲のみではなく、事業そのものを改善させていく第二創業の可能性はどのようなものであるかについても触れる。
親族内継承と親族外継承の比較
まず、親族外承継育成の必要性について述べる。寺島は、廃業する理由として、事業承継における後継者不在をあげている。そのため、後継者育成は企業を存続させるためにも重要な課題である。また、親族以外の後継者は増加傾向にある。なぜなら、子どもが事業の引き継ぎをしたいと思うとは限らないことや、子どもが経営者としての資質に欠ける場合があるためである。
しかしながら、親族外承継は、親族内承継に比べて困難である。その1つめの理由は、創業者が自ら築いた事業を引き渡したくないと考えるからである。2つめの理由は、親族外の従業員は、事業における価値観や組織編成力などを学ぶ機会が親族内と比べて少なく、浅い理解にとどまるからである。
また、親族内承継および親族外承継ができない場合、第三の選択として、M&Aの選択がある。ただ、M&Aは、従業員の雇用・待遇に問題が生じる可能性があるため、多くの経営者が避ける傾向にある。事業承継の選択順序は、表に示しているとおりである。第一選択が創業者にとっては最も理想的であるが、状況によっては第二、第三の選択肢をとる場合がある。
親族外継承における後継者育成計画
創業者は、親族外承継の際に、後継者育成計画(サクセッションプラン)を取り組む必要がある。なぜなら、事業承継には、事前準備と準備期間が必要だからである。また、後継者は、イノベーション的傾向よりもマネジメント的傾向が求められるからである。
次に、どのような後継者育成計画(サクセッションプラン)が有効なのかを示していく。まず、後継者育成を担うのは、企業内が中心である場合が多いが、それ以外には私塾が存在する。例えば、金融機関と自治体が育成カリキュラムに基づいて教育している。具体的には、知識・スキル面と、考え方・精神面に分けて教育を行い、後継者育成をしている。後継者育成で重要な点は、①指導側・後継者の全人格的関係、②先端のOJT、③指導者側が先端に身を置くことであると、関 (2006)は述べている。なお、ここでの先端とは、現場の最前線を意味する。さらに、Frank (2008)は、後継者育成の6つの項目を提唱している。それは、「ニーズを把握する」「どのレベルまでサクセッション・プランの対象とするかを決定する」「スキル・業績・成長を評価する」「ポテンシャルを見極める」「後継候補をテストする」「サクセッションプランを根付かせる」ことである。これらをケースバイケースでカスタマイズすることが重要であると述べている。
第三者の目線としてコンサルタントによる後継者育成計画の策定が有効
また、事業承継をする際に、創業者の肯定する後継者と、後継者の経営能力および幹部や従業員からの後継者への信頼が必ずしも一致しない問題もある。この問題を解消するためには、第三者が創業者と幹部・従業員の双方から判断する必要性が生じる。つまり、第三者機関が、企業の体質、財務、アイデンティティを承継するための後継者育成計画を立てることで、事業承継の成功の確率が高まると考えられる。
このように、創業者から直接事業承継について学ぶことは、必ずしもプラスに働かない。なぜなら、事業承継は、マネジメントだけではなくイノベーション、すなわち第二創業の可能性を模索する必要があるからである。創業者から後継者にうまく承継するためには、単に踏襲するのではなく、徐々にエンパワーメント(権限委譲)していくことが望ましい。そうして後継者は、マネジメントとイノベーションの両輪を動かしていくことを可能にすべきである。
以上より、事業承継には、後継者育成計画の策定が有効であることを述べてきた。また、創業者と幹部・従業員の双方の視点から事業承継を計画する際に、第三者機関であるコンサルティング会社や研究機関が、承継の計画準備をすることが重要であることも指摘した。さらに、事業承継そのものがイノベーションであるため、事業や組織の変革をする第二創業をする機会にもなりえる。