兄弟姉妹が喧嘩をしないようにするには

喧嘩しない子どもなど存在しないが、過度な喧嘩はファミリービジネスを経営する両親にとっては悩みの種となるだろうだろう。兄弟や姉妹の仲が悪く、世代継承の段階になっても、その遺恨が事業経営に影響するといった話は、枚挙にいとまがない。必ずや生じるであろう兄弟姉妹間の喧嘩をこじらせることなく、子どもたちが協力しあって会社を支え合う関係は、いかにして構築することができるのだろうか。本研究レポートでは、兄弟姉妹間のコンフリクトとその解決方法について理論的に検討したフリードマン(1991)の研究をもとに、考察していきたい。

全ての兄弟姉妹は何らかの競争や衝突を経験しており、これはファミリービジネスにおける宿命であるといえる。では、そういった競争や衝突を踏まえた上で、兄弟姉妹の個々人を認めつつも、いかにして協働を促すことで、ファミリービジネスにおける有効性を高めることができるのだろうか。フリードマンによると、兄弟姉妹間の競争は、子どもたちがファミリービジネスにおいて自由に役割を担えない状況において生じるとされている。そのような状況において、子どもたちは他の兄弟に対して怒りやフラストレーションを感じ、さらには両親の介入により、怒りの解消が不可能になってしまう。こういった兄弟間の競争や衝突は、子どもたちが成長しても生じる問題であるといえる。なぜなら、子どもたちはその問題の解決に動機づけられてはおらず、また解決のためのスキルも欠如しているからである。すなわち、世代継承を検討するファミリービジネスにとって、後継者となる子どもたちのコンフリクトは、非常に大きな問題となるということである。

では、これらの問題をいかにして解決することが可能なのか。フリードマンは、次の3点のゴールを設定し、その解決策を検討している。まず、正当な兄弟姉妹の争いは、①個人特性として受け入れる。次に、②兄弟姉妹間で信頼を構築する。最後に、③協働を行うために、兄弟姉妹間で関係性を再構築する。さらに、フリードマンは、これらのゴールに到達するために、次の4点のスキルの獲得を目標としている。①傾聴のスキル、②コンフリクトを解決するためのスキル、③適応するスキル、④ファミリービジネスの目標に対する同意と施局的に関与するスキルである。以上の3点のゴールと4点のスキルを踏まえた上で、いかにして兄弟姉妹間の衝突や競争をマネジメントすることができるのか、詳しく検討したい。

兄弟姉妹の喧嘩の3タイプと対策

まずフリードマンは、兄弟姉妹間の争いは、社内通念上の兄弟姉妹の役割(ステレオタイプ)を担わせることによって生じると指摘している。それゆえ、兄弟姉妹間の役割について、歴史的なルーツを説明すると共に、子どもたちがファミリービジネスにおいて働くことの妥当性を問うことが重要だとしている。具体的な質問としては、次の5点を挙げている。第1に、あなたが成長する中で、家族の中で担わされてきた役割について、あなたは何を感じていましたか。第2に、あなたの兄弟姉妹の役割は何ですか。第3に、なぜ、あなたや兄弟姉妹はその役割を担ったのですか。第4に、あたなはどうのような方法で、その役割を担い続けるのですか。第5に、その役割を担うことは、ファミリービジネスの仕事をどのように助けましたか、それとも妨げましたか。これらの、ルーツの説明や問いかけを通じた役割の理解は、兄弟姉妹間の既存の関係性を再構築する手助けとなる。さらに、問いかけを通じたコミュニケーションは、兄弟姉妹間の強みや弱みの理解の手助けとなり、子どもたちがそれぞれの違いを理解することになる。

次に、フリードマンは、兄弟姉妹間の争いは、兄弟姉妹の不公平な扱いによる憤慨によって生じると指摘している。それゆえ、子どもたちに対して対等な関係を築くことによって、その関係性を改善することが可能となる。例えば、兄弟間において、長男と次男が両親より同程度の関心を持たれている場合には、衝突が少なくなるという既存研究が存在する。また、不公平感は子どもの自己中心性によっても生じるとされている。例えば、自己中心性の高い子どもは、他の兄弟姉妹よりも両親からの関心を集めたいと思うようになるだろう。よって、子どもたちの自己中心性を低減されることも、兄弟姉妹間の競争や衝突をマネジメントする上で重要となる。さらには、自己中心性の低減のみならず、協力し合う領域や分野を特定することも、不公平感の減少につながるとされている。なぜなら、兄弟姉妹間がお互いが協力し合いながら仕事を行うことについて自覚的になることで、両者の関係性は改善されるからである。

最後に、兄弟姉妹間の争いや競争によって生じる問題は、両親や他者への依存によって、その解決が妨げられている。なぜなら、子どもたちが両親に依存すればするほど、いかにして衝突を解決すれば良いか、その解決策を検討しなくなるからである。それゆえ、子どもたちの自律性を向上させることも重要となる。ファミリービジネスにおいて、いかにして兄弟姉妹間のコンフリクトを解消することができるのかについての規範が形成されれば、そのファミリービジネスにおいて、子どもたちは良好な兄弟関係を築こうとする。また、適切な程度の兄弟姉妹間の敵愾心も、新たな問題の解決策を見つけようと、子どもたちを動機づけることになるだろう。さらに、フリードマンは自律性を促す具体的な問いかけとして、次の2点を挙げている。まず、現在のあたなと兄弟姉妹の関係は、もし両親があたな自身のやり方で関係を改善してもよいと励ましてくれた場合、どのように変化しますかというものである。次に、明日、両親が亡くなったら、あなたと兄弟姉妹の関係はどのように変化しましうかというものである。これらの問いかけを行うことで、子どもたちは、より自律的に自らの関係を考えるようになり、関係改善に対して主体的になるだろう。

 

 

以上のフリードマンの研究を踏まえれば、兄弟喧嘩をこじらせない方法として、主に次の3点に注目する必要がある。第1に、子どもたちに長男だから、長女だからといわゆるステレオタイプを当てはめるわけではなく、きちんと子どもたちが担うべき役割を対話を通じて確認しあう必要がある。このようなコミュニケーションをせずに、両親の勝手な期待や想像によって役割を押し付けることは、兄弟喧嘩の発端になりかねない。第2に、子どもたちに対して、できるだけ平等に接する必要がある。長男や長女のみに過度な愛情をかけることは、次男や次女にとって不公平感を感じやすい。同様に、末っ子にのみ愛情を注ぐことも、同様の不公平感を生むことになる。できる限り、一人一人の子どもたちに対して対等に接することが、兄弟喧嘩のこじれを未然に防ぐ方法となるだろう。第3に、子どもたちの自律性を促すことが必要である。兄弟喧嘩は必ず生じてしまうものである。であるならば、そういった喧嘩を、こじらせることなく、自らで解決することができるように促すことが肝要となる。