最近、注目されているベンチャー型事業承継とは何か?

最近、日経新聞などの紙面でも事業承継した後継者の成功物語として、ベンチャー型事業承継について取り上げられることも多くなってきました。これは昨年末経済産業省が発表した2025年には127万社が廃業危機を迎えるという事業承継の社会問題に対する1つの解決策として期待されているためだと思います。ベンチャー型事業承継を推奨しているものとしては非常に喜ばしいことであり、この流れがさらに大きなものになって欲しいと思います。

ここでは改めてベンチャー型事業承継とはどのようなものなのか、また、具体的な取組みとしてどのように推進すべきなのかについて説明します。

そもそもベンチャー型事業承継という言葉について、ベンチャー型事業承継とは「有形無形の経営資源を最大限に活用し、リスクや障壁に果敢に立ち向かいながら、新規事業、業態転換、新市場開拓など、新たな領域に挑戦し続けることで永続的経営をめざし、社会に新たな価値を生み出すこと」を意味し、以前では第二創業などと呼ばれていましたが、何か言葉としてワクワク感がないということで、(株)千年治商店の山野千枝代表が考えられた言葉です。また、山野氏はこのベンチャー型事業承継をベンチャー施策にして欲しいということで、近畿経済産業局らに働きかけ、様々な関連イベントを仕掛けられた結果、現在、ベンチャー型事業承継というワードが紙面を賑わすようになりました。

さらに、具体的なベンチャー型事業承継の推進も兼ねて、弊社代表の大井も金融機関や商工会議所からの依頼に基づき、ベンチャー型事業承継の紹介と、その具体的な推進を支援しています。

ベンチャー型事業承継の特徴と、一般的なベンチャーとの違い

ベンチャー型事業承継自体は何か特別なことかと言えば、そうではないと思っています。老舗企業もそうですが、過去のままのビジネスモデルをそのまま維持している企業はありません。時間は掛けつつも常にイノベーション、そこまで言わなくとも新規顧客開拓、新用途開発、事業領域の拡大・新展開などを行っています。ただ、その事業開発を事業承継のタイミングでやってしまうことが新しいのかもしれません。多くの後継者において、実は現経営者であるお父さん(お母さん)と同じをことしないといけないという思いが強いように思いますが、企業の生き残りも考えると、実はそうではなく、これまでとは違ったことをすべきなのです。それを真正面で伝えているのがベンチャー型事業承継と言えます。後継者は良くも悪くも経験が少ない分、これまでの業界の慣習に囚われることがありませんので、新しい挑戦をするにはうってつけと言えます。

さて、別の視点として、では一般的なベンチャーと、ベンチャー型事業承継はどのように違うのでしょうか。その違いは下表にまとめていますが、大きな違いとしては、ベンチャー型事業承継は家業(ファミリービジネス)の経営資源を最大限活用することと、その目的がファミリービジネスの永続させることがスタートとなっています。その主体として後継者が担うことになります。

そのようなベンチャー型事業承継を成功させるポイントは、まずは、単純に、後継者が興味を持って取り組めることを推進すれば良いと思います。そのなかで、1つ目は、先代から脈々と続く家業において、経営資源の棚卸しをしっかりと行うことになります。2つ目はファミリービジネスならではの課題である先代や家業との経営幹部との調整が必要になります。

この2点はベンチャー型事業承継の特徴と言えます。あとは、一般的に新規事業開発は千三つ(センミツ:千に三つぐらいしか成功しない)なので、より可能性を高めるために、事業アイディアを考えるにあたって、2つほどポイントがあります。

1つ目は、経営資源をモノや技術などだけでとらえるのではなく、“機能”として捉えることです。もう1つは事業領域は今後伸びる市場を対象とすべきです。例えば、現在ではヘルスケア、エネルギー、環境、電気自動車、IOT、AIなどとなります。

先ほど、検討した機能とこれらの伸びる市場で、強制的に事業アイディアを出していきます。制約条件の下でアイディアを出した方がよりイノベイティブなアイディアが出ることは研究論文としても紹介されていることで、非常に有効な手立てとなります。その他にも事業開発のポイントはあるのですが、次に事例について検討してみましょう。

先日(7/31)のガイアの夜明けで、元々は西陣織の帯工場であったミツフジ株式会社の3代目のベンチャー型事業承継が取り上げられていました。

概要はガイアの夜明けのサイトより、以下の通りです。

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「銀メッキ繊維」を使った「シャツ型ウェアラブル端末」で注目を集めるミツフジ(本社・東京と京都)。元々は、西陣織の帯工場だったが、2代目の三寺康廣さん(70)が、26年前、アメリカ企業が開発した「銀メッキ繊維」に着目。独占契約を結び、まだ品質が低かったものに改良を重ね、性能を高めてきた。その銀メッキ繊維は「抗菌」性能が認められ、日本ではじめて抗菌靴下にも使用された。しかし、徐々に経営が悪化し、2014年には、会社の存続が難しい状態に。

そこで後を継いだのが、3代目の三寺歩(41)さん。行ったのは、大胆な方向転換だ。歩さんは、自社の銀メッキ繊維の「導電性」が高く評価されていることに着目、「ウェアラブル端末」に参入する決断を下す。開発を進めたのはシャツ型のもの。繊維メーカーとして培ってきた「編み」の技術を生かし、伸縮性にも優れた体に良くフィットするものを作り上げた。この「導電性」と「フィット感」、2つを兼ね備えた製品「hamon」は、精度の高い心拍データが取れるとの評価を得て、今、様々な分野から注文が殺到しているという。

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3代目の三寺歩氏はパナソニック、シスコシステムズ、SAPジャパンなどIT畑の経歴を持つ後継者で、先代がアメリカ企業から導入した銀糸における「導電性」という“機能”に注目し、その“機能”とウェアラブル(IOT)という成長市場との掛合わせによって、新しい事業を開発し、家業を新たな成長に導いたというお話です。

ここで注目すべきは、この事業は3代目の三寺氏だけでは産まれなかったということ、また、先代の2代目の三寺康廣さんだけでも産まれなかったのです。まさに、ベンチャー型事業承継の象徴的な事例だと思います。

このようにベンチャー型事業承継のポイントは、先代から脈々と受け継がれている経営資源をいかにして、次の成長市場に結び付けるのかにあります。あとは、番組の中でもファミリービジネスならではの衝突についても紹介されていましたが、そのような課題にも対応しておかないと、せっかくの素晴らしいビジネスアイディアが産まれても形にならないこともあります。

後継者は一般的に先代を同じことしないといけないという思い込みを持っているように思います。しかし、ファミリービジネスに関わらず、すべての企業において、常にイノベーションを志向しなければ企業は存続できません。その担い手として後継者が考えられるわけですが、後継者が自社の事業に興味を持たずに困っているというと経営者は一度、後継者にベンチャー型事業承継についてお話してみてはいかがでしょうか。