本来、事業承継は特定の後継者を次世代の経営者として選択し、パワーや権威を移譲させることを指す。しかしながら、ファミリービジネスという特性上、家族として経営を担っていくことも可能となる。特に、後継者となりうる息子や娘が複数存在する場合、創業者や現経営者としては、手を取り合ってファミリービジネスを担ってほしいと考えるだろう。今回の調査レポートでは、複数の後継者がグループとして、リーダーシップを発揮していくことに注目したカーター・リッドウェル(2014)の紹介通じ、チームとして事業を継がせる方法について検討したい。
カーター・リッドウェル(2014)は、ファミリービジネスにおけるリーダーシップグループがどのように機能するのかについて、事業承継を経たファミリービジネスを行っている9社を対象としたインタビュー調査を通じ、明らかにした研究である。彼らは、インタビュー調査を通じ、以下の7点の命題を導出した。以下、それぞれの命題について詳述する。
命題1:リーダーシップを発揮する後継者グループが生まれる可能性は、前世代がチームとしてのリーダーシップを発揮していたかによって高まる。
ファミリービジネスにおいて、創業者や現経営者の世代がグループとしてビジネスを経営している場合、ファミリー内にはグループとしてビジネスを進めることが慣習となる。その結果、特定の後継者のみが経営に携わるというよりも、複数の後継者となりうる後継者たちが経営に携わるようになる。それゆえ、本来ならば衝突が生じかねない後継者たちが、ひとつのチームとしてリーダーシップを発揮することが可能となる。よって、前世代がチームとしてのリーダーシップを発揮していればいるほど、リーダーシップを発揮する後継者グループの発達の可能性は高まる。
命題2:リーダーシップを発揮する後継者グループ内の競争は、グループの有効性を低める。
後継者グループの発達に伴い、前世代のネガティブな特徴も引き継がれることになる。創業者や現経営者の世代において、メンバー同士の競争やそれに伴う衝突が生じている場合、やはり後継者グループにおいても引き継がれる可能性がある。その結果、それらの競争や衝突は企業経営を非生産的なものとする。よって、後継者グループ内の競争は、グループの有効性を低める。
命題3:リーダーシップを発揮する後継者グループ内の協働は、グループの有効性を高める。
もちろん、前世代から後継者グループに引き継がれるのは、ネガティブな側面だけではない。前世代において、メンバーの協働を通じた経営活動に従事している場合、後継者グループにおいても、その特徴は見受けられることになる。その結果、後継者グループのメンバーは、協働を通じたコミットメントの向上を通じ、ファミリービジネスにポジティブな影響を与えることになる。よって、後継者グループ内の協働は、グループの有効性を高める。
命題4:ファミリービジネスにおける合理的な意思決定と、その意思決定の一貫性は、リーダーシップを発揮する後継者グループの有効性を高める
前世代の特徴が反映された後継者グループの多くは、明確なパワーや権威を獲得していない場合が多い。これは、事業承継とは、パワーや権威の移譲を指し、多くの場合がその過程にあるからである。このような状況において、後継者グループは創業者や現経営者の意思決定に従うことになる。よって、創業者や現経営者の意思決定が、ファミリービジネス全体の意見を踏まえた上で決定されており、後継者グループのメンバーに一元的に広まる必要がある。なぜなら、合理的な意思決定が後継者グループに共有されることで、後継者たちはその達成に向けて行動することが可能となるからである。よって、合理的な意思決定と、その決定の一貫性は、後継者グループの有効性を高める。
命題5:後継者グループのメンバーが対等な合意によってパワーと権威を共有することは、より良い意思決定とグループの有効性を高める。
リーダーシップを発揮する後継者グループの強みは、グループのメンバーが協力しあいながら、経営することが可能になるということである。例えば、複雑かつ難解な問題に対して、メンバーの知識の活用を通じて解決することができる。そのような協力において、グループのメンバーが対等なパワーや権威を持っていることが必要となるだろう。なぜなら、少数のメンバーのみがパワーを持っている場合、メンバー同士の適切な協力は難しくなるからである。よって、後継者グループのメンバーがパワーと権威を共有することは、ファミリービジネスの意思決定やグループの有効性を高める。
命題6:後継者グループのメンバーはパワーと権威の共有パターンは、①破壊的 ②不公平 ③特定のメンバーのみ ④平等 に共有する。
調査を通じ、後継者グループのメンバーにおける、パワーと権威の共有は以下の4パターンであることが明らかとなった。第1に、パワーと権威の破壊的な共有である。これは、経営状態厳しい状況において無理やり共有されることを指す。第2に、パワーと権威の不公平な共有である。これは、例えば自社の株式の所有率は同等だとしても、実際のパワーや権威が等しくない場合を指す。第3に、パワーと権威の特定のメンバーのみとの共有である。これは、グループの中でも既にパワーや権威の強いメンバーを中心に共有されることを指す。第4に、パワーと権威の平等な共有である。これは、グループのメンバーそれぞれの所有権やポジション等が同等であることを指す。
命題7:リーダーシップを発揮する後継者グループの有効性と信頼は、チーム内の互恵性と協働の規範に基づく交換関係の結果として高まる。
後継者グループのメンバーが平等にパワーや権威を共有し、前世代からポジティブな特徴を引き継いたとしても、グループのメンバーが互いに信頼していることが必要となる。メンバー同士の信頼は、互いが互いのために働くことを通じ、獲得することになる。また、互いを意識した協働はグループの有効性を高めることになる。よって、互恵性と協働を通じることで、グループの有効性と信頼性は高まる。
以上を踏まえると、命題としてはどれも当たり前のこととなっているが、チームとして事業を継がせるためには、非常に丁寧な準備が必要となることが分かる。まず、創業者や現経営者は後継者たちに、協力しながら事業を経営することを実際に見せていく必要がある。なぜなら、本来ならば衝突しかねない後継者たちに、手を取り合って課題を解決していくことが、自社においては当たり前であることを理解させなければならいからである。また、実際にパワーや権威を引き継ぐ際にも、特定の後継者に偏ることなく平等に共有する必要がある。なぜなら、後継者間の小さな差異が、大きな齟齬を生むからである。しかしながら、チームとしての事業承継が成功した場合、特定の個人にのみ事業を継承するよりも、ファミリービジネスの困難を乗り越えることが出来る可能性が高まるだろう。いずれにせよ、チームとしての事業承継においては、十分な準備が不可欠となる。