ファミリー憲章(family constitution)は、ファミリービジネスのマネジメントをする上で重要な文書である。ファミリー憲章には、会社の歴史やファミリービジネスのビジョンや家族の規範やルールなど様々な内容が記載されている。本研究はファミリー憲章の実行と今後のファミリービジネスのパフォーマンスの関係を分析するために、2003年から2013年の530のスペインのファミリービジネスを対象に調査した。研究結果は、ファミリー憲章を持つファミリービジネスはパフォーマンスが改善されるというポジティブな関係があった。さらに、ファミリー憲章の実行と今後のパフォーマンスのポジティブな関係は、家族以外のCEOや複数の家族オーナーを持つ会社、後継者世代に管理されている会社でより強い関係であった。
ファミリー憲章とは何か?
ファミリー憲章とは、ファミリービジネスの関係を統治するためのルールや手順を含む家族に認められた文書であり、ファミリービジネスのオーナー間におけるコミュニケーションや合意のプロセスの結果である。スペインのファミリービジネスではファミリー憲章は、会社の歴史や今後のファミリービジネスのビジョン、会社に関わる家族の規範やルール、承継計画、ステークホルダーの合意(株主の移行、配当金、会社の評価)や、会社と家族(取締役会や親族会議)のなかで権力構造を発展させていくことを示している。
ファミリー憲章を持つメリット(効果)
理論的プロポーザルを調査・実証するために専門のコンサルタントと深層インタビューを行い、ファミリー憲章とコンフリクトの減少が関係していることを示した。さらに、世代の特徴に関する前提を有効化し、実際のファミリー憲章の影響を予測することを調査した。
理論に基づくと、エージェンシー理論ではファミリー憲章と今後の会社のパフォーマンスのポジティブな関係は次のように考えられる。
①ファミリー憲章の促進によるマネジャーと会社の専門家のモニタリングの改善(プリンシパル―エージェントのコンフリクトの緩和)
②株主の合意を伴うオーナー間の改善された合意(プリンシパル―プリンシパルのコンフリクトの緩和)
③ファミリー憲章を促進する家族間のコミュニケーションと透明性(プリンシパル―上位プリンシパルのコンフリクトの緩和)である。
さらに、それぞれのファミリービジネスのエージェンシーコンフリクトに依拠するファミリー憲章の有効性を調査し、この有効性が家族以外のマネジメントや複数の家族のオーナー、会社の後継者世代の管理によって高められる仮説を提示する。ファミリー憲章の合意は、家族やオーナーシップやマネジメントの関係の妨害を減らし、金融パフォーマンスに有害でない社会情動的資本の側面でもポジティブであることを議論した。ここからは詳細な仮説構築のためのロジックを示していく。
仮説1:ファミリー憲章の実行は今後のファミリービジネスのパフォーマンスにポジティブに関係する。
ファミリービジネスは一般的にオーナーシップが集中することやトップマネジメントチームへ家族が参加することがあるため、権限が分散されたオーナーシップ企業と比べてプリンシパル―エージェントのコンフリクトが少ないと考えられている。しかし、家族の利他主義が家族のエージェントを生み、縁者びいきを引き起こすようなフリーライディング(ただ乗り)の機会を生じさせる可能性があるため、プリンシパル―エージェントのエージェンシーコストは、家族がCEOのケースでは損害を負う可能性がある。他のエージェンシーコストをみると、パフォーマンスにネガティブな影響のあるマジョリティ―マイノリティ関係のオーナーのコンフリクトや家族の株主のコンフリクトのようなプリンシパル―プリンシパルの関係を引き起こすため、ファミリービジネスによって損害を受ける可能性がある。さらに、ファミリービジネスは一般に家族の剰余と家族のオーナーの利益のコンフリクトを示すプリンシパル―上位プリンシパルの関係によって引き起こされる家族内部の利益についてのエージェンシーコンフリクトを引き起こす。ファミリー憲章は、このようなエージェンシーのコンフリクトを減らす適切なメカニズムである。ファミリー憲章は家族会議、株主の合意のような他のメカニズムを促進したり包含したりするため、特定の家族のガバナンスメカニズムのすべてを含んだものであり、家族と会社の有効なコミュニケーションを高める。よって、優位なコーポレートガバナンスは改善された会社のパフォーマンスを高めると考えられ、ファミリー憲章に基づくファミリービジネスは会社のパフォーマンスを改善する。
仮説2:ファミリー憲章と今後のパフォーマンスの実行のポジティブな関係は、家族のCEOより家族でないCEOの会社の場合により強い。
仮説3:ファミリー憲章と今後のパフォーマンスの実行のポジティブな関係は中央集権化したオーナーシップよりも複数の家族のオーナーの場合は、より強い。
ファミリー憲章や今後の会社のパフォーマンスを実行する関係を調査することが本研究の目的であるが、ファミリービジネスは社会情動的資本のような家族中心の非金融的な成果も追求している。エージェンシーコンフリクトの一方で、ファミリービジネスは同質性が低く、ファミリー憲章と今後の会社のパフォーマンスの関係の調整要因を探索する。ファミリービジネスは異質性があり多様であり、家族が参加する点で通常のビジネスのオーナーシップやマネジメントとは異なる。マネジメントへの家族の参加やオーナーシップの進展がある場合、コーポレートガバナンスはより公式の管理システムや構造を必要とする。家族のマネジメント参加に関係して、よりプリンシパル―エージェントのコンフリクトが家族以外のCEOである会社の場合に生じる可能性がある。なぜなら、潜在的な機会主義、すなわち、家族の縁者びいきの可能性があるからである。そのような機会主義を避けるために、ファミリー憲章は一般的に家族の介入に関するコーポレートガバナンスやルールを高め、マネジャーの機会主義を制限し家族の職業意識を高め、パフォーマンスを改善すると考えられている。また、家族でないCEOは、会社の職業意識の改善やファミリー憲章の促進をする家族のオーナーのモニタリングのため、フリーライディングの機会や機会主義のインセンティブは低い。さらに、分配的公正(有能な家族のエージェントが昇進することが少ない場合に生じる)の感情は減少する。
家族のオーナーシップの参加に関連して、複数の家族のオーナーはそれぞれの関心が異なるため、パフォーマンスに対して有害な家族の確執やコンフリクトを導く可能性がある。しかし、株主の合意はマイノリティの株主を守り、株主のコンフリクトを防ぐファミリー憲章が提示される。したがって、家族のオーナーシップが中央集権化されていない場合、パフォーマンスにポジティブな影響をもたらすファミリー憲章が予測される。
仮説4:ファミリー憲章と今後のパフォーマンスの実行のポジティブな関係は、創業者世代のファミリービジネスと比べて後継者世代のファミリービジネスの方がより強い。
さらに、より複雑な家族(プリンシパル―上位プリンシパルのコンフリクト)は、ファミリー憲章を実行する有用性がより高い。特に、ファミリービジネスの世代はコンフリクトの度合いに影響し、新しい世代が増えると会社に家族が参加するだろう。世代による傾向を考えると、創業者世代は創業者に帰属する中央集権的権威が高い傾向にあり、エージェンシー問題が小さくなる。第二世代は、兄弟のパートナーシップを組織し、異なる価値観や利益のためコンフリクトを恐れる傾向にある。公式化されたガバナンスメカニズムは、兄弟の権力がファミリービジネスで発揮されるのをコントロールする。縁者の組織がある場合、エージェンシー問題が増加し、それは第三世代以降に生じることが多い。なぜなら、受動的な家族の株主や異なる部門は一般的に会社に参加し、他者志向な態度を減らし、拡大した家族は会社に関わる意思決定に影響していくからである。
調査の結果、すべての仮説が支持され、ファミリー憲章は家族間の合意を形式化するための内的コミュニケーションプロセスを実行し、ファミリービジネスにポジティブな関係を示している。エージェンシー理論に基づいて、ファミリー憲章の実行が今後のファミリービジネスのパフォーマンスにポジティブに関係することを示した。深層インタビューでは、一般的にファミリー憲章は、家族、オーナーシップ、マネジメントの利益と重複し、コンフリクトを避けるために規範や合意を形成することをファミリービジネスコンサルタントは示している。ファミリー憲章は会社への家族の介入や複合的な家族のステークホルダーの合意、家族の会議を形成することに関係する。それらの合意はマネジメントのモニタリングや会社の専門化を高め(プリンシパル―エージェントコンフリクトの緩和)、株主間のコンフリクトを制限し(プリンシパル―プリンシパルコンフリクトの緩和)、会社のマネジメントにおける家族のネガティブな干渉を減らす(プリンシパル―上位プリンシパルコンフリクトの緩和)。
ファミリー憲章を履行することは、金融機関、サプライヤー、顧客、その他のステークホルダーに利用されるポジティブなシグナルになる。本研究をとおして、ファミリー憲章がファミリービジネスの成果につながることを実証しただけでなく、ファミリービジネスの状況によって成果への度合が調整されることが明らかになった。実務においてファミリー憲章について見直すことがまずは重要であろう。
[参考文献]
Arteaga, R., & Menéndez-Requejo, S. (2017). Family constitution and business performance: Moderating factors. Family Business Review, 30(4), 320-338.