家庭と仕事の両立に関する問題は、ビジネスの種類に問わず生じる問題である。特に、ファミリービジネスにおいては、家庭と仕事の距離が近い。家庭における問題は仕事に影響を与えるだろうし、仕事における問題は家庭に影響を与える。今回の調査レポートでは、家庭と仕事の間で生じるコンフリクトが、ファミリーのメンバーにどのような影響を与えるのかについて定量研究を通じて明らかにしたクワンら(2012)の研究を紹介したい。

まず、クワンらは、ファミリー・ワーク・コンフリクト(家庭生活が仕事に与える葛藤)と仕事の満足の関係について検討している。ファミリー・ワーク・コンフリクトとは、家庭内の役割が仕事上の役割と衝突することによって生じる葛藤を意味する。例えば、家庭内では良き父親として家庭にコミットすることが求められる一方で、個人本人としては仕事にコミットしたいと考える場合があるだろう。その状況において、個人は家庭にコミットすることにストレスが生じることになる。この葛藤を、ファミリー・ワーク・コンフリクトという。

仮説1:ファミリービジネスにおいては、非ファミリービジネスよりも、ファミリー・ワーク・コンフリクトと仕事の満足の負の関係は弱い。

これまでの研究において、このファミリー・ワーク・コンフリクトは、仕事の満足と負の関係があると考えられている。これは、家庭と仕事の間で生じるストレスが、仕事の満足度を低下させるからである。しかしながら、ファミリービジネスにおいては、異なる影響が生まれる。なぜなら、ファミリービジネスにおいては、家庭生活と仕事の関係が密接であるがゆえに、ファミリーメンバーの抱える葛藤を把握しやすく、ファミリー内での助け合いが生じるからである。そのような助け合いは、葛藤から生じるストレスを軽減すると共に、葛藤の解決策を提示することになる。

さらに、ファミリービジネスにおいては家庭と仕事が近いがゆえに、仕事に熱中することが全てではないことにも気付くだろう。また、ファミリービジネスの性質上、非ファミリービジネスよりも仕事に融通が利くようになる。よって、ファミリービジネスにおいては、家庭生活が仕事に与える葛藤のもつ、仕事の満足に与えるネガティブな影響は弱まるだろう。

仮説2:ファミリービジネスにおいては、非ファミリービジネスよりも、ファミリー・ワーク・コンフリクトと社会ネットワークの負の関係は弱い。

次に、クワンらは、ファミリー・ワーク・コンフリクト(家庭生活が仕事に与える葛藤)と社会的ネットワークの関係について検討している。社会的ネットワークとは、個人が社会における他の関係者との間に持つ、個人的ないしは仕事における関係性を意味する。具体的には、ファミリービジネスのメンバーの持つ、仕事やプライベート上の他者との関わりを指す。

非ファミリービジネスにおいて、家庭生活が仕事に与える葛藤は、社会的ネットワークを高めると考えられている。これは、家庭生活において葛藤が生じることで、個人はより快適な状況を目指すと共に、よりその状況にのめり込むことになる。すなわち、家庭にいることが彼らにとってのストレスとなるため、ストレスのない仕事環境にコミットするようになるのである。その結果、個人はより社会的ネットワークを構築することになるだろう。

しかしながら、ファミリービジネスにおいて、家庭生活が仕事に与える葛藤を持つ個人にとってはそうとはいかない。なぜなら、ファミリービジネスにおいてはファミリーとビジネスが非常に密接であるため、彼らは家庭のストレスから逃れて仕事に集中することが難しいからである。よって、ファミリービジネスにおいては、仕事環境にコミットするようにはならず、社会的ネットワークの構築は進まないだろう。

クワンらは、以上の2点の仮説を踏まえ、中国のファミリービジネスと非ファミリービジネスの経営者158名を対象に質問紙調査を実施。調査の結果、仮説1と仮説2が支持された。すなわち、ファミリービジネスにおいては、ファミリー・ワーク・コンフリクト(家庭生活が仕事に与える葛藤)が仕事の満足に与える負の影響が緩和されることが示された。また、ファミリービジネスにおいては、社会的ネットワークの構築を促す影響が弱まることが示された。

以上を踏まえると、クワンらの研究は、ファミリービジネスの家庭と仕事の距離の近さが、家庭が仕事に与える葛藤の持つ負の影響を弱めること示している。これは、近年の家庭と仕事を切り分ける風潮は逆効果であり、本来のファミリービジネスの良さを軽減させる結果となることが分かる。実際に、そのような風潮によって、後継者がいるものの、会社を継がないといった廃業危機の問題も引き起こしている。ファミリービジネスであるからこそ、また、ファミリーであるからこそ、より家庭と仕事の距離感が近いことで、お互いの状況を理解し、改善に導くことができるのである。

家族にファミリービジネスのことをお話されていないオーナーの方は、これを機会に奥様やご子息にファミリービジネスのことをお話することをお勧めしたい。