ファミリービジネスにおいても、メンバーの仕事の満足度を高めることが求められている。なぜなら、当初後継者として検討していた息子や娘が転職してしまう可能性や、期待していた後継者のモチベーションが低下してしまう可能性があるからである。では、いかにしてファミリービジネスにおいては、ファミリーメンバーの仕事の満足度を高め、離職意志を低めることが可能なのか。今回の調査レポートでは、ハーニンら(2012)の研究を紹介する。

まず、ハーニンらは、ファミリービジネスの特徴から、仕事の満足度の向上と離職意志の低下について検討している。ファミリービジネスの特徴とは、ファミリーメンバーはファミリーの一員であると共に、ビジネスを担うチームの一員である。一方、非ファミリービジネスにおいては、従業員は企業の一員であるものの、ファミリーの一員ではない。すなわち、ファミリーメンバーは、同様のメンバーによって構成される家庭と仕事という異なる2つの組織に所属することになる。よって、ファミリービジネスにおいては、メンバーの仕事の満足度は、家庭からの影響と仕事からの影響を受けることになる。

仮説1:ファミリーとファミリービジネスへの参画は、ファミリーメンバーの仕事の満足度に正の相関がある。

ハーニンらは、これらのファミリービジネスの特徴を踏まえ、家庭と仕事という異なる組織の価値を統合することで、高い仕事の満足を引き出すことができると考えている。例えば、ファミリーによって培われた伝統と、ファミリービジネスによって培われた能力を統合することは、メンバーのコミットメントを高めることになるだろう。彼らはファミリーとファミリービジネスのそれぞれの価値を統合している状態を、ファミリーとファミリービジネスへの参画と位置づけ、この仮説を導出する。

仮説2:仕事の中心性は、ファミリーメンバーの仕事の満足度に正の相関がある。

次に取り上げる概念は、仕事の中心性である。仕事の中心性とは、自らが担う仕事に価値があり、組織において重要となることを指す。これは、ファミリーメンバーに対して、次の2点の影響を与えるからである。第1に、ファミリービジネスにおいては必ずしも、自ら仕事に従事するメンバーによって構成されるわけではない。そのようなメンバーに対して、中心的な仕事を与えることで、仕事へのコミットメントを引き出すことが可能となる。第2に、ファミリービジネスにおいては必ずしも十分な給与や魅力的な仕事を提示できるわけではない。そのような場合において、中心的な仕事は第1の理由と同様にコミットメントを引き出すことが可能となる。

仮説3:より優れた他の仕事は、ファミリーメンバーの仕事の満足度に負の相関がある。

その一方で、仕事の中心性が万能薬として機能するわけではない。ファミリーのメンバーが、他社の魅力的な仕事に直面することで、仕事の満足度は低下する。例えば、メンバーが現在の仕事と同様の内容で、より給与の高い職を見つけた場合、自社の給与が低いことを理解してしまうからである。

仮説4:ファミリーメンバーの仕事の満足度は、離職の意志に負の相関がある

最後に、仕事の満足度と離職意志の関係について検討する。これは非ファミリービジネスの従業員と同様に、ファミリービジネスのメンバーにおいても同様であると考えられている。メンバーが仕事に満足すればするほど、彼らはその仕事を続けようとする。その一方で、意味のない仕事を続けることで仕事への不満足が募れば、離職してしまう。

以上の4点の仮説を踏まえ、ハーニンらは70社のファミリービジネスにおける、111名の従業員を対象に質問紙調査を実施。その結果、全ての仮説が支持された。すなわち、ファミリーとファミリービジネスへの参画度合いが高まれば高まるほど、仕事の中心性が高まれば高まるほど、ファミリーメンバーの仕事の満足度を高まることが示しめされた。その一方で、より優れた他の仕事を知れば知るほど、ファミリーメンバーの仕事の満足度が低くなることが示された。最後に、仕事の満足度は、ファミリーメンバーの離職意志を弱めることが明らかとなった。

今回の調査レポートで紹介したハーニンらの研究は、ファミリービジネスにおける仕事の満足度の向上と、それに伴う離職意志の低下は、以下のマネジメントによって達成可能であることが理解できる。

第1に、家庭と仕事は異なる組織であることを理解し、それぞれの組織の強みを統合させるというものである。現在、仕事(ビジネス)と家庭を分断し、ご子息に仕事のことを話さいないオーナーの方も多いが、そのような振る舞いはファミリービジネスに悪影響であることをまず、理解すべきである。そのうえで、例えば、ファミリーとして繁栄することのメリットをファミリー内で共有することや、これまでのファミリーの歴史を理解しあうことで、ファミリーとしての価値を高める。その一方で、ファミリービジネスとして競合他社と異なる側面や、これまで培ってきた能力を理解することで、ビジネスとしての価値を高める。これらを通じ、メンバーは、優れたファミリーの一員でありながら、かつ、優れたビジネスを担う一員であると理解することができる。

第2に、ファミリーメンバーを重要な役職や仕事を担わせること、さらには競合他社とも引けを取らない人事施策制度を設計する。まず、ファミリーだからといって、彼らに価値のない仕事を続けさせることは、仕事の不満足を生む。また、ファミリーだからといって、人事制度や給与制度の設計を曖昧にしていると、やはり仕事の不満足を踏む。今日の情報化社会を踏まえれば、ファミリービジネスは、非ファミリービジネスと常に比較されることになり、十分な人的資源管理が求められるといえよう。すなわち、「家族だから大丈夫」といった油断は、自社のコンピテンシーを弱めるのである。よって、ファミリービジネスにおいても、綿密なマネジメントの設計と実行が要求される。